サイド・トラック

走るのニガテなぼくのランニング日記
SIDETRACKED.

出 版 社: 評論社

著     者: ダイアナ・ハーモン・アシャー

翻 訳 者: 武富博子

発 行 年: 2018年10月


サイド・トラック  紹介と感想 >
注意力不足で集中できない、のではなく、色々なものに注意が向かい過ぎて、それぞれに集中してしまうため散漫になってしまうのがジョセフの状態です。五感がすべて敏感で外部からの刺激に過剰に反応してしまう。注意欠陥障がい(ADD)という発達障がいの一つで、ADHDほど多動性はないものの、生きずらさを抱えていることには変わりありません。こうした子たちをサポートする通級教室で、担当のT先生に陸上チームへの参加を促されたジョセフ。ガリガリで運動が苦手なジョセフは、自分に自信がなくトラブルを避けるように生きてきました。そんな彼の前に颯爽と現れたのは、身長180センチ近い大柄な少女、ヘザーです。ジョセフの窮地を救ってくれたスポーツが得意な彼女に刺激を受けて、ジョセフの世界が変わり始めます。誰ともたたかわず踏みつけられるままだった少年は、ヘザーの叱咤激励と図書館で手にとった『男子諸君、体を鍛えよう!』という本に導かれ、陸上チームでクロス・カントリーに挑むことになります。カッコいい男前な女の子ヘザーや、ジョセフの粋なおじいちゃん、学校図書館司書のフィッシュバイン先生など、ユニークなキャラクターたちと関わり、彼らを思いやることでジョセフの心に変化が兆していく物語です。運動が得意ではない少年がスポーツにうちこんでいく。ライバルチームに勝つことよりも、これまでの自分を越えていくこと。いつも心配ばかりしていた少年の気持ちが解かれていく、爽やかな物語です。スタートを告げるピストルの音が聴覚が敏感なジョセフには耐えられなかったり、人にはあたりまえなことがあたりまえじゃなかったりと、この障がいの大変な部分も描かれていますが、いたって明るいジョセフの口調が楽しく物語を読ませてくれます。ジョセフのおじいさんによる高級老人ホームの人間模様の解説がすごく面白いです。ヤングアダルト小説の主人公はグループに馴染めない子ばかりですが、歳をとってもそのスピリットは変わらないものかなと。永遠のヤングアダルトの人もいるものです。