セシルの魔法の友だち

出 版 社: 福音館書店

著     者: ポール・ギャリコ

翻 訳 者: 野の水生

発 行 年: 2005年02月


セシルの魔法の友だち  紹介と感想 >
お互いの気持ちを伝えあえるのは、ほんの数秒間。時計が12回、鐘を打つ間だけ。さあ、あなたなら、愛しい人にどんな言葉を伝えますか。セシルとジャン=ピエールは、お互いに一目惚れしてしまった間柄。ふたりっきりで見つめあうことはできるけれど、いつも言葉は通じない。何故って、セシルは人間の八歳の女の子、ジャン・ピエールはペットの、てんじくねずみなのだから。フランス語と、ねずみ語じゃ、さすがに話をすることができない。セシルにもジャン=ピエールにも、沢山、沢山、伝えたい思いがある。どんなに互いのことを好きかってことを。どうしたら、自分をわかってもらえるかな、ということを。古い柱時計が教えてくれた、魔法の時間。その時間の間ならセシルとジャン=ピエールは言葉を通じさせることができる。午前12時、時計が12回、鐘を打つ間だけ。さあ、どんな言葉を伝えよう。なんという、初々しい初恋のせつなさ。恋する一人と一匹の、気持ちはちゃんと通じるのでしょうか。

セシルがペットショップで出会った、てんじくねずみは、他の子たちとは違って、金色の目をしていました。セシルは思いました。これは、とびっきりのてんじくねずみだと。ジャン=ピエールも、思いました。すてきな子だなあ、好きだなあ。ほかの誰ともちがう、すばらしい目の輝きを持った女の子、セシル。お互いにその目の光に、心を奪われてしまったのです。セシルはなわとびを買うつもりで貯めていた、お小遣いをはたいて、ジャン=ピエールを手に入れました。そして、一人と一匹の甘い生活は始まったのです。互いに気持ちを伝えあいたい、その募る思いは、魔法の時間を与えてくれました。ほんの短い瞬間だけれど、種族を超えて、言葉を交わすことができる。ジャン=ピエールは魔法のねずみなのです。さて、セシルとジャン=ピエール、一人と一匹には、様々な事件が持ちあがります。おそいかかるピンチの連続、そしてユーモア。ジャン=ピエールは、望んでもいない冒険旅行に旅立つはめになったり、サーカスのスターになってしまったり。八歳だったセシルも、やがて十二歳の女の子に成長します。ただ、自分の手の中に、ジャン=ピエールを捕まえているだけではなく、彼の本当の幸せを考えるようになります。女の子の心の成長も描いた、恋する気持ちの物語なのです。

巨匠、ポール・ギャリコのユーモアあふれる児童向け作品です。非常にリズムのいい気持ちの良い翻訳文は、読んでいて楽しくなるほど。野の水生さんは、幸田敦子さんの名前で、あのルイス・サッカーの面白くてたまらない『穴』を訳された方です。太田大八さんの懐かしい感じの挿絵も、とても素敵な一冊です。『雪のひとひら』『ジェニィ』『七つの人形の恋物語』など、名作揃いのギャリコですが、こんな作品もあったなんてと、驚かされました。是非、読んでいただきたい一冊です。

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