出 版 社: 小学館 著 者: ブライアン・フォークナー 翻 訳 者: 三辺律子 発 行 年: 2010年04月 |
< 盗まれたコカ・コーラ伝説 紹介と感想 >
「コカ・コーラ伝説」とはなにか。それはコカ・コーラ社のトップの3人の人間しかコカ・コーラのレシピを知らない、という噂です。レシピは門外不出のトップ・シークレットであり、その3人はけっして同じ飛行機や乗り物には乗らず、万が一のリスクにも備えているらしい。これは、有名な都市伝説でもあるそうです。この物語はフィクションですが、そんな伝説が下敷きになっています。もし、この3人が同時にいなくなってしまったらどうなるのか。コカ・コーラの原液を調合ができる人間は誰もいなくなり、ストックが切れたら、あのコカ・コーラの味はこの世の中から消えてしまう。この物語では、そんな事態が起きてしまいました。秘密のレシピを盗み出そうと、何者かがトップ3を誘拐してしまったのです。さて、ニュージーランドに住む中学生、フィザーはちょっと人とは違った能力を持っていました。その敏感な舌は、ソフトドリンクの味のちょっとした違いを判別できるのです。銘柄のみならず、ビン入りと缶入りの違いや、ボトルの大きさの違いまでもわかってしまう特殊能力。以前、コカ・コーラ工場の機械ミスによる糖分の不足を見抜き、指摘したことがあったフィザーは、困窮したコカ・コーラ社からの依頼を受け、味見役に招へいされます。フィザーの使命はコーラのレシピを解明することでした。トップ3が行方不明のまま、原液が底をつこうとしている。このままでは、コカ・コーラが消えてしまう。果たして、フィザーはコカ・コーラのレシピを解明することができるのでしょうか。
単純で面白く、しかも、ちょっとしたウィットのある作品です。特殊な能力を持った少年が、大人に使命を託される、なんていうあたりには興奮させられるものがあります。利き酒やワインのテイスティングのように、ソフトドリンクの微妙な味わいの違いを判定する。大人の世界のシュミレーションみたいなことだけれど、少年にしかできない特技という感じもして、児童小説としての面白さ全開です。ワクワクする設定ですね。企業間の争いに巻き込まれた少年たちの都市型の冒険物語。ボディガードのようにフィザーに帯同している腕っぷしが自慢の友人、ツパイとか、フィザーが習っている棒術の師範、空手四段のデニス先生などが、フィザーをサポートしてくれるのも心強く、安心して楽しめる作品です。ここのところ不安定な子どものお話ばかり読んでいたので(好きなんだけれど)、こんなスッキリさわやかも、いいかなと思いました。子どもにとって、大人の中で認められて一丁前に扱われるなんていうのは、なかなかないことだし、それはとても誇らしく感じてしまうものですよね。この作品、少年たちが素直で、子どもとして愛され、可愛がられつつ、自尊心がくすぐられるところがいいんですよ。葛藤ゼロの真っ直ぐで楽しい作品でした。
少年時代の思い出の飲み物と言えば、やはりコーラです。僕の子ども時代はコカ・コーラ一辺倒で、ペプシは現在ほど勢力を延ばしていなかった気がします。当時はビンで買うコーラのキャップの裏をハガすと、模様や写真が出てくるという楽しみがありました(色々な企画がありましたね)。すっかりカロリーオフのコーラしか飲まなくなりましたが、漠然とした記憶の中に、コカ・コーラのオリジナルの味があります。とはいえ、目の前で各社のコーラを注がれても判別できそうにないのです。そういえば、ある新しい炭酸飲料を飲んだ際に、子どもの頃には発売されていた「ミリンダ」の味に似ていて、当時の記憶がよみがえったことがありました。いわゆるマドレーヌ効果です(おそらく)。味の記憶って、ちょっとしたタイムカプセルなんだなと思います。