読書マラソン、チャンピオンはだれ?

Kelsey Green, reading queen.

出 版 社: 文渓堂 

著     者: クラウディア・ミルズ

翻 訳 者: 若林千鶴

発 行 年: 2014年11月


読書マラソン、チャンピオンはだれ?  紹介と感想 >
校長先生が「読書マラソン」の開催を宣言します。優勝したクラスにはピザの食べ放題をプレゼント。そして、全校で期間中に読まれた本が全校で二千冊を越えたら、自慢のあごひげをそり落とすと言うのです。小学三年生のケルシーの心に火がつきます。クラスでトップをとれば、最優秀賞読書ランナーとしてプレートに名前が彫られ、学校図書館に飾られる。読書家を自認するケルシーにとって、これは絶好の機会でした。なにせ算数の時間にもこっそり本を読んでしまうほどの「読書大好き少女」のケルシーなのです。さっそく、本に取りかかりますが、そんな時に限って「邪魔」が入ることもあります。同じクラスには、どんどん本を読んでいくサイモンや、本が好きではなく、まったく読もうとしないコーディーもいます。ケルシーはライバルとして浮上したサイモンが本当に本を読んでいるかスパイをはじめたり、コーディーのために本を選んだりと大忙し。さて、学校をあげての読書マラソンはゴールまでたどり着けるのか。実際の書名が沢山登場するあたりも興味深い作品です。

この作品、明るく楽しい、読書好き少女の大活躍を描く物語なのですが、同時に「読書好き」の暗黒面が描かれています。ケルシーは本を読みたいがために、担任の先生が大切に思っている算数の授業をなおざりにしたり、他のことに興味を持っている友だちの気持ちに配慮できなかったり、家族のだんらんさえ読書の邪魔だと思ってしまうのです。ケルシーは人を傷つけていることもあるのだけれど、この気づきが彼女の心にはそう響いてこなくて、その伏線はちゃんと回収されません(まあ、多少の反省はあるのだけれど)。一方で、本を通じての共感をとても大切にしています。あまりにも速いスピードで本をかたづけていくサイモンは、本当に本を読んでいるのか。そう疑っていたケルシーでしたが、サイモンと『秘密の花園』の話をするうちに、彼の「読み」に気持ちが通じてしまうあたりも、まあ、いい場面なんだけれど、その読書至上主義が、やや苦味を持って感じられるところもあります。本が好きじゃなかったコーディーも、ケルシーが薦めた本を読めるようになっていくのですが、実は、苦手な本をがんばって読んでいるのです。これ通常の作品だと「本が好きではない」という価値観をケルシーが認めるところに落ちるんじゃないか、と思ってました。でも、そんなことはないんです。あくまでも読書礼賛の姿勢に貫かれています。中学年向けの作品だし、とくに裏はないだろうし、複雑に考えなくてもいいのかと思ったのですが、どうも、本好きの、驕りや、業のようなものについて考えさせられるところが多かった作品です。自分は一時期、ほとんど本を読まなくなっていて、特に児童文学には嫌気がさしていたのですが、実際、本を読まないという人生の選択もありだと思っていました。また読めなくなるのだろうな、という焦燥から、ちょっと今、頑張っていますが、読者としての自分には依然として不審を抱いています。なので、この作品をやや懐疑的に読んでしまったかも知れません。どうも手放しに読書を好きだと言えないような気持があって、そうした後ろめたさが、自分の読書の誘因なのかも知れません。それもまた読書の魅力かと思っています。

色々な作品のタイトルが登場するのは楽しいところです。巻末にはブックリストもついていて、しかも、本編では詳しく紹介されていない内容の解説があるのも良いんです。こうした子どもたちが本を読む「主人公が読者」である海外の作品では、その国ではどんな作品が名作とされているのかというスタンダードがわかります。この作品では『秘密の花園』や『小公女』のような古典から、『のっぽのサラ』、『合言葉はフリンドル』、『シャーロットのおくりもの』など、なかなかセレクトが効いています。新しいところでは『きみに出会うとき』も登場します。ニューベリー賞への言及があったりと、やっぱりアワード作品は注目されているんですね。日本では未翻訳の作品もあって、まだまだ未知の世界が広がっている感がありましたね。やはり、もっと多くの本を知りたいという欲があるし、こういう内容の物語には惹かれてしまうわけで、今しばらくは、読書の人、でいられるのかも知れません(半信半疑)。