メディエータ

The mediator darkest hour.

出 版 社: 理論社 

著     者: メグ・キャボット

翻 訳 者: 代田亜香子

発 行 年: 2005年04月

メディエータ  紹介と感想>

『プリンセス・ダイアリー』(ディズニー映画『プリティ・プリンセス』の原作)シリーズなどでお馴染みのメグ・キャボットの霊能者(メディエータ)スザンナシリーズの第一巻です。霊能者の活躍や邪悪な霊たちが跋扈する物語とはいえ、おどろおどろしいホラーでななく、なんといっても「全米の女の子に大人気」のメグ・キャボットですから、「ガールズもの」のエッセンスがたっぷり散りばめられた作品となっています。霊を見たり、話をすることのできる能力を持った女子高生スザンナは、迷える霊や邪霊たちを成仏させることを、霊能者の義務と責任と考えて、それを「影の仕事」にしながら暮らしています。しかし、生半可ではない連中を相手に闘っているものだから、生傷どころか、肋骨を骨折して入院するハメになったりと苦労は絶えません。武闘派霊能者とは言うものの、スザンナも十五歳の女の子、やっぱりファッションには興味はあるし、アウトレットでお目当ての釣果をあげることに血眼になったりもします。お尻が大きく見えるカーゴパンツよりは、スタイリッシュなスリップドレスを着たい。そんな、ごく普通のガールズの一人だし、無論、カッコいい男の子にだって興味はあります。ところが、スザンナの目には、なかなか普通の男の子たちは目に入らない。だって、ちょっとやそっとの男の子じゃたちうちできない美青年が、いつも自分の部屋に同居しているのだから。彼の名はジェシー。スザンナの住む家にとりついている150年前に殺された青年のゴーストです。上流階級出身の彼は、上品な物腰の好青年。成仏できないまま、この世に留まっている理由は謎に包まれているものの、スザンナの憧れの人なのです。ジェシーは一体、自分のこと、どう思っているのか、なんて、ゴースト相手に考えても仕方がないことなんだけれど、年頃の女の子としては、やはり気になるところ。ましてや、ジェシーの元婚約者で、ジェシーを殺したかも知れない女マリアのゴーストに、突然、襲われて、首筋にナイフをつきつけられたとあっては、ジェシーの死の真相が、一層、気になるというもの。どうやら、自分たちの住む家の庭に埋められたものに何か秘密が隠されているらしい。スザンナの謎ときは、夏休みのホテルでの幼児世話係のアルバイトと並行しながら進みます。まったく、霊能者をやったり、普通の女子高生をやったり、と、大忙しの毎日なのです。

物語の魅力は、超常現象が扱われていながらも、そんな毎日を、あくまでも普通の女の子の感覚で乗り切るスザンナの感受性にあります。好きな人の前で距離をどうはかったらいいものか思い悩んでみたり、ロマンチックなことを想像して舞い上がってみたり、一方で、そんな大切な彼のピンチの際には、身をなげうって危険に身を投じる一途さや、わざと気のないそぶりで意地を張ってみせたりする気丈さは、ガールズものの女の子感覚そのもので、この伝わってくるドキドキ感が楽しいのです。一方、より良き理解者のドミニク神父とともに、悪霊と戦うカッコいい姿。無論、ファッションにもこだわって、戦闘用のナイフを腰のベルト装着し、ドレスもばっちり決めて出陣する、霊能者(メディエータ)女子高生の冒険譚。なかなか楽しい一編でした。自分だけに幽霊が見える、という道具立ては、良く使われるモチーフで、あれやこれや思い出されますが、国内児童文学では、片川優子さんの『佐藤さん』という作品が好きでした。見たくもない亡霊ばかりが見えてしまう高校生の男の子と、憑かれやすい女の子、佐藤さんは同級生。二人の微妙な距離感のあるもどかしい淡い恋と、憑いてまわる亡霊たちの物語のコントラストが、楽しくも、かわいい作品でした。ゴーストが見えてしまう、という物語では、ヘンリー・ジェイムスの『ねじの回転』のような恐ろしい雰囲気の話は逆に稀で、不思議とロマンスになってしまうものが多いような気もします。まあ、多少、来世にも夢を馳せたいものですしね。