シュガー&スパイス

Sugar and spice.

出 版 社: フレーベル館 

著     者: ジーン・ユーア

翻 訳 者: 渋谷弘子

発 行 年: 2009年02月


シュガー&スパイス 紹介と感想>
真面目じゃない方がクール。言われた通りに宿題をやるなんてカッコ悪い。授業で自分の書いた詩を先生に読み上げられるなんてサイテー。そんな偽悪的な価値観がまかり通るのが中学校というところ。しかも、ルース・スパイシーの通う中学校は、自分たちでクソ学校というくらい、かなりレベルが低い。女子は強固なグループを組んで、グループ以外の子たちとは付き合わないというのが鉄の掟。暴力的な男の子も幅をきかせている。そんな学校の中で、将来、医者になりたいなんて夢を抱いているルースは、周囲からは浮いていて、つまはじきにされています。何を言われても、ルースは言い返せない。唯一、近づいてくる女の子は、グループからはみ出してしまった、他人の悪口しか言わないような子。気の弱いルースは、なんとか自分を周りに合わせようと、不本意ながらも宿題をやらないでみたりして、だんだんと本来の自分を損ない始めていました。そんなところに颯爽とあらわれた転校生は、シェイ・シュガー。他人に左右されず、我が道を行く彼女は、ルースが置かれている危機的状況にいち早く気づき、行動を開始したのです。

ということで、女子の友情モノです。ジーン・ユーア作品は読み損ねていて、今回が初めてだったのですが、ジャクリーン・ウィルソンみたいなところもありながら、ビターな味わいもあり良いですね。イラストのイメージが魅力を付加していますが、ややズレるかなー(糖衣にはなっているけれど)。ルースは低所得層の家の子で、シェスが富裕層という対照的な設定。お金持ちのお嬢さまであるシェスが、ルースの通う中学校に転校してくるのも訳ありのようだし、両親との葛藤を抱えているあたりも、まあパターン通り。とはいうものの、かなり読ませます。ルースの性格が真摯で素直でいいんですね。彼女が小さな世界の焦躁におしつぶられそうになっている姿など、いたたまれないものがある。パパが病気のため、ママはテスコ(ジャスコみたいなところでしょうか)で働いて生活を支えている。妹や弟の面倒をみなければならないのがルースの役目なのだけれど、家では落ち着いて勉強をすることができない。愛情深いママなのだけれど、ルースの抱えている学校や、家でのしんどさは理解してもらえない。しかし、そんなルースが、八方塞がりの思春期的窮状から、自分で活路を見出だしていく姿は、なかなかの見ものなのです。

シェイ・シュガーとルース・スパイシー。シュガー&スパイスの二人は次第に仲良くなっていきます。とはいえ、気が強く、なんでもできるシェスに庇護される形となったルースが、彼女と対等の関係を築くのは、なかなか難しいことです。「支配と隷属」の友人関係に陥りそうなところを、ルースが芯を貫くことで、真の友情が築かれる。ただ、それには痛みをともないます。あらかじめナチュラルに傷ついているシェスは、人を信用していない。それはまた、甘えでもある。シェイのことを、ルースが叱咤しなければならないことだってある。そして、ぶつかり合う。なんだかんだいって、十四歳はまだ幼い同士なんですね。かといって、大人の社交上のつきあいではない、むきだしの気持ちのまま、手をつなげるものなのかも知れない。同級生との危ういパワーバランスの中で、自分の信じる正しさを貫くのは難しいものですね。周囲に流されそうになってしまうところを、ぐっと堪える。時には、一人ぼっちになってしまう覚悟も必要となる。中学校の環境や空気、生徒のムード、その全体を変えることは、ここではテーマではないし、一人が負うには重すぎること。自分一人で胸を張っていることだって、かなり難しい。でも、少しだけでも前に進むことはできるかも知れない。そんな等身大の十四歳の物語が、甘いだけではなく、苦味も込めて、刺激的に語られているのが本書です。まさに、シュガー&スパイス。これは、良かったですよ。

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