シークレッツ

Secrets.

出 版 社: 偕成社 

著     者: ジャクリーン・ウィルソン

翻 訳 者: 小竹由美子

発 行 年: 2005年08月


シークレッツ  紹介と感想 >
頭の中の架空の友だちに手紙を書いたり、「日記」に名前をつけて、こっそりと秘密を打ち明けたりしたことがありますか。僕はあります。嘘です。引きますね、さすがに。そうした乙女手帖なマネは、夢見がちな孤独な女子にだけ許された特権という気がします。有名子ども服ブランド、モイア・アプトンのオーナー兼デザイナーの一人娘で、有名お嬢様学校に通うインディアは、他の人が羨むほど裕福だけれど、ちょっと寂しい生活を送っています。お母さんが望むような子どもではない自分は、お母さんが作った服も似合わないみっともない娘。学校では、生真面目なあまり、どうも浮き上がってしまって、友達もできない。心を許せる時間は、愛読書の『アンネの日記』を読んでいるときと、アンネのマネをして、日記に思いを記すときだけ。一番の願いごとは、本当の友だちが欲しい、ということ。それと、どうもこのところ、大好きなパパの様子がおかしいことも気になるし・・・。家の中も寂しくて、誰も、自分のことを気にしてくれていない気がする。お母さんの態度。ため息のつき方。眉のあげ方。肩越しにしか話しかけてくれない。そして、今日は、どうしたわけか、学校帰りに、お迎えの車もきてくれていない。裕福なのに幸福ではないインディア。しかし、今日のインディアは、ちょっと意を決して、家まで歩いて帰ることにしたのです。半分は冒険、あとの半分は自棄。高級住宅地のインディアの家までの帰り道の途中には、あのラティマー団地があります。うんと広くて、物騒で、住んでいる人たちも怪しい人ばかりという噂のスラム。『クスリ漬けの、無気力な未婚の母や不良のはきだめよ』とお母さんが言う、そんな団地を通り抜けようとしていたとき、インディアは一人の女の子と出会います。髪はぼさぼさ、おでこには大きな赤い傷あとのある、やせてがりがりの子。モトクロス用の自転車で、カッコよくすばらしい技を決めている。ガールミーツガール。それが、インディアとトレジャーの出会いだったのです。

ラティマー団地のおばあちゃんの家で暮らすトレジャー。ラインダンスの先生で、素敵なおばあちゃんは、トレジャーのことを、どんなに可愛がってくれているか。『あたしの小さな宝物(トレジャー)』、そう、おばあちゃんに抱きしめられて言われるとき、トレジャーは、どんなにか幸せだったか。本当のお母さんはいる、けれど、お義父さんは、コロコロと変わる。でも、お母さんの今度のカレシときたら、もう最低最悪の暴力男。なんで、お母さんはあんな男が好きなんだろう。あの男、テリーにベルトのバックルで殴られて、額を割られた日以来、おばあちゃんちに逃げてきたけれど、どうやら、お母さんは、トレジャーを取り戻しにこようとしているみたい。もうテリーと暮らすのはまっぴら、そう思うトレジャーだけれど、おばあちゃんには、親権がないし、おばあちゃんの旦那さんは、今、刑務所に服役中だし(これも訳ありなんだけれど)、ソーシャルワーカーの裁定は、目に見えたようなもの。不安におびえるトレジャーが、ある日、団地で遊んでいたときに出会ったのは、すごくお上品で、一九五〇年代からタイムスリップしてきたような古めかしい制服を着た女の子。でも、全然、お高くとまっていないし、トレジャーを感心したような目で見ている。なぜ、こんなところに、こんな子が、と思ったけれど、意気投合した二人は、さっそく、おばあちゃんちへ。そう、本当の友だちが欲しい、というインディアの夢が、叶ったのです。

さて、それからが大変で。親権を主張する母親から逃げだしたい危機一髪のトレジャーを助けるため、インディアは『アンネの日記』作戦を決行します。それは、自分のお屋敷の屋根裏部屋に、アンネのようにとレジャーをかくまうこと。他の家族の目に触れないように、密かに食事をはこびこみ、二人で、この友情を誓いあうのです。行方不明になったトレジャーは、変質者に誘拐されたのではと警察もマスコミも大騒ぎ。しかも、喘息の持病のあるトレジャーは、呼吸器がないと、大変なことになるのです。さあ、どうするインディア。このピンチをどうやって切り抜けるのか。境遇の違う二人の少女は、お互いに、両親からの愛情に恵まれてない。そんな二人が出会って、友情を育てていく過程が、温かく感じられます。屋根裏部屋の冒険物語。愛情と友情を求める女の子たちが、小さな力を振りしぼって闘う勇気の物語。「ガールズ」シリーズでもおなじみの、大人気作家ジャクリーン・ウィルソンの楽しい小説(イラストはもちろんニック・シャラット)。『幸福な家庭はすべて互いに似かよったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっている』とは、ロシアの文豪の有名な言葉ですが、現代の子どもたちが抱える、それぞれの「不幸」を扱いながら、それを友情で乗り越えていく、ガールズたちのハートに幸福な拍手を送りたくなる作品ですよ。

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