がんばれ給食委員長

出 版 社: あかね書房

著     者: 中松まるは

発 行 年: 2018年11月

がんばれ給食委員長  紹介と感想>

この作品、まるでビジネス書の問題解決のケーススタディを読んでいるような説得力があります。読んでいて、感心してしまうのです。ボトルネックを探し、それを克服するためのプロセスの描き方が秀逸で、また、それを阻む「人の心のわだかまり」が重要視されています。一方で成長物語として、子どもが自分の「無邪気さ」に気づき、大儀である問題解決のために無邪気を捨て、覚悟を決めていくという、実に読み応えのある作品となっています。表紙のポップさや、タイトルからでは想像できない深さがあります。これは「自分の無邪気さとのたたかい」なのだ、と主人公のゆうなが考えるあたりにまで気づきが及ぶのは、相当凄いなと思うところです。子どもが短慮であることは当たり前なのですが、知識を得て、考えを深めて、より実効性のあるところに踏み込んでいく姿に驚かされる圧巻の作品です。学校給食を改善する、そのテーマに挑む、壮大なプロジェクトが始まります。

小学五年生の元木ゆうなは、くじびきで、やりたくなかったクラスの給食委員に選出されました。その仕事は「栄養指導板を書く」「お昼の構内放送で献立の説明」「給食当番の健康と服装のチェック」「給食当番の食器返却のチェック」などです。そんなゆうなはトイレで、給食の献立を考えている栄養士の藤代まさみ先生がすすり泣いているのを聞いてしまいます。まだ若い藤代先生が、給食の調理員のオバさんに意地悪をされているのではないかと勘ぐるゆうな。しかし、先生を問い出したゆうなはその真相を知ってしまうのです。栄養士にも成績がつけられており、その評価は、子どもたちの「残菜(食べのこし)」で決まるということ。給食の調理員たちに協力を求めた先生は、逆に自分たちの腕が悪いのかと反発され窮地に立たされていたました。ゆうなは先生から自分たちの学校の残菜が多いことを知らされて驚きます。栄養士の腕が悪いから残菜が多いのだという先生の言葉でしたが、ゆうなはなんとか力になれないかと考えます。臨時給食委員会を招集し、他のクラスの給食委員たちにも協力を求めます。しかし出てきたのは「給食がまずいから」という意見や「子どもがきらいなものを出さなければ良い」という意見も。子どもたちは自分たちが好きな食べ物をあげていき、理想の級力を考えます。自信を持って、その献立を藤代先生に見せた子どもたちは、自分たちが知らなかった、深い給食の世界を思い知らされます。ここから藤代先生による、栄養士がどのように給食で栄養管理を行っているかの解説編となりますが、ちゃんとした知識がなければ給食はつくれないのだということや、給食が栄養基準でしばられているということを思い知ります。レシピとメニュー以外の部分で改善はできないのか、ということで、調理法の問題点について子どもたちは言及しますが、ここで少人数による大量調理の現実を知ることになります。そして、食中毒を防止するための加熱処理によって野菜の水分が出てしまうことや、そもそも生の食材をそのまま使用できないことも知るのです。給食は学校給食法の基準に定められており、また効率を考えると「給食の大量料理は普通の調理とはちがう」のです。ゆうなは調理師の苦労を知り、自分たちの奢りに打ちのめされ、うしろめたくなります。ここで、自分たちの無力を知り、なにもしないという選択もあったかと思いますが、ここから次の「カイゼン」への一歩を踏み出すのです。ね、ビジネスドキュメンタリーみたいでしょう。

物語は働く大人たちのプライドに関する部分にも言及していきます。調理師は栄養士に口出しされることで誇りを傷つけられたように思い、栄養士の先生は子どもたちが自分を助けようとすることに対して、(ここに藤代先生の仕事に矜持はあるが真面目すぎるキャラクターの妙があるのですが)やはり複雑な感情があるようです。子どもたちは子どもたちで先生がケチをつけただけのように思っている。このあたりの心のせめぎあいのリアルさや、人が持つ敵意の造形などが実に見事なのです。結果的に、給食のたべ残しを減らしたい、という先生と調理師と子どもたちの気持ちは一緒であることはわかり、知恵を出しあうことになります。結論から言えば「食べ合わせ」に行きつきます。なんでも牛乳と合わせること。栄養価が高い牛乳は他の食品では代替できない上に、学校給食法施行規則で『完全給食とは、給食内容がパン又は米飯、ミルク及びおかずである給食をいう』という言葉に縛られていて、ミルクがない給食は完全ではないとされます。そこで法律をクリアしながら、食事のたべ合わせを変えるためにアイデアが考え出されます。とはいえ、ここから校長をはじめとする学校を説得し、教育委員会にかけあい、生徒たち全員を説得するための戦いとなるのです。これが、実に大変なことです。ゆうなは「みんなの不満はわかる」が「食べのこしをなんとかしなければならない」という問題を解決するために、反対する同級生たちとも対峙していきます。この時のゆうなの「正直めげるけど」「すべてのおとなのように、わたしも、じたばたするしかないんだ」という覚悟が、物語冒頭を考えれば、実に驚くべき成長なのです。平気で給食はマズイという子どもたちの言葉にもめげず、調理師や栄養士を続けることの矜持や、学校の中で相談相手のいない藤代先生の孤独など、大人たちの心の深淵も描かれていきます。ともかくも読みどころ満載です。学校給食を考える上で読んでおきたいマストの一冊です(と児童文学評を完全に逸脱してしまうのです)。