出 版 社: くもん出版 著 者: パトリシア・C・マキサック 翻 訳 者: 宮木陽子 発 行 年: 2010年11月 |
< クロティの秘密の日記 紹介と感想>
ひとつめの秘密は、クロティが文字の読み書きをできるということ。これは奴隷にできてはいけないことです。もし、そんなことが主人に知れたら、ムチで打たれ、南部のはてに売り飛ばされてしまう。だから、絶対に秘密にしなければならない。ぼっちゃまが奥さまから勉強を習っているのを、うちわで扇ぎながら横で見ていた奴隷の少女クロティは、いつの間にか文字を覚えていました。しかも内緒で日記帳をつけて、文字の読み書きができるように勉強しています。もっともっと言葉を知りたい。これは誰にも言えない秘密です。ふたつめの秘密は、新しくやってきた、ぼっちゃまの家庭教師ハームス先生のこと。先生は奴隷解放論者であり、奴隷たちを自由な世界に逃がす運動をしていることをクロティは知ってしまったのです。でも、そんなことがバレたらハームス先生は捕まってしまう。クロティが文字の読み書きができるということに気づいた先生は、秘密の文書をクロティに送りますが・・・。時に1859年。南北戦争前夜のアメリカ。奴隷が個人の私有財産であった時代。大きな歴史の転換期を前に、12歳のクロティはその揺れる胸のうちを日記帳に綴り続けます。
クロティの日記には辛い奴隷の日々が記されています。農場には主人一家と30人近い奴隷が一緒に暮らしていました。奴隷は主人の持ち物であり、自分の意志などはありません。クロティのお母さんも売り飛ばされてしまい、今は一緒に暮らしてはいません。働きづめだし、ちょっとした失敗でも主人にムチで打たれ、時には殴り殺されてしまうこともある。そんな毎日の中で、クロティは危険を冒して、文字を覚えようとしていました。カレンダーの日付で今がいつかを知り、盗み読みする本から世界を知っていくクロティ。しかし、「自由」という言葉を知っていても、「自由」とは何か具体的に想像することができないのです。奴隷解放論者たちの活動は活発となり、クロティもまた逃亡して「自由」になることを夢見るようになります。時代の大きなうねりの中で、小さな震える心が見つめ続けた世界。少女の日記体の魅力と、いつ秘密がバレるのではないかという緊張感。クロティがただの奴隷ではなく、考え深い子であることは、見る眼がある人にはおのずと気づかれてしまう。読者もその秘密を共有しているので、だんだんと緊迫感を増してくる状況にドキドキしながら、ページをめくる指が早くなる作品です。クロティの賢明さと勇気には胸がすくような気持ちになります。そして最後に、人間にとっての真の「自由」とは何かを考えさせるところもいいですね。
この本の巻末には当時のアメリカの国内状況が詳しく解説され、写真も紹介されています。クロティも実在の人物ではないものの、リアルな後日談もあり、その後の南北戦争、奴隷解放と続く時代の中で生きた黒人たちの人生を知ることができます。僕が子どもの頃、アメリカの大作ドラマ『ルーツ』のTV放送がありました。黒人奴隷の歴史を描き、一般的にも大きな話題となった作品です。アフリカで捕えられた黒人少年がアメリカに連れてこられ、奴隷として売られます。部族の誇りを失わず、白人に抵抗し続けた彼は、何度も逃亡を試み、ついには逃げ出せないように、まともに歩けなくされてしまうなど、悲痛な場面も記憶に残っています。彼から続く一族の歴史を追っていく物語は、やがて原作者のアーサー・ヘイリーに続くものでした。これが実にショッキングで、当時の小学生の間でも話題となりました。アメリカの黒歴史を知る機会となったと同時に、男子の間では「奴隷狩りごっこ」が流行るという功罪もありましたが、それでもこの不幸な歴史についての理解は深まりました。物語からビビットに歴史を学ぶことはできますね。