大海の光

ステフィとネッリの物語
O¨ppet hav.

出 版 社: 新宿書房

著     者: アニカ・トール

翻 訳 者: 菱木晃子

発 行 年: 2009年08月


大海の光  紹介と感想 >
終わりました。長い物語の終わりは、予想外にあっさりとしたものだった気もします。それでも命が尽きるまで人生は続いていくのだから、主人公たちの物語はまだ終わらないのでしょう。きっと地球のどこかでステフィとネッリの姉妹も21世紀を迎えているのかもしれない。あの物語が続いていて、そんな地続きの地平に現在があるのは、どうにも不思議な気がします。戦争という嵐が過ぎ去り、自分の意志で自分の人生の選択ができるようになる。失われていた自由が手に入る。地球の裏側に新天地を求める人生もあれば、ステフィの養母のメルタのように自分の生まれた島をほとんど出ない漁師の妻の人生もある。夢を実現する充足感もあれば、同じことを繰り返しながら日々を重ねていく穏やかさも貴重なもの。小説にならないような凡庸な日々を、満ち足りて過ごせることもまた幸福。自分にとって大切なものとは一体、なんなのか。それを突き詰めないと人生の選択はできない。自由の中で決断を下すことの難しさ。人生の岐路に立ったステフィとネッリ姉妹が、決断を問われる完結編です。

「ステフィとネッリの物語」シリーズ第四巻に入って、前巻から二年が経過しています。ついに1945年がやってきました。ドイツ軍が降伏し、ユダヤ人も収容所から解放されました。しかし、アウシュビッツに移送されたパパがどうなったのか、依然として行方はつかめません。それぞれ、高校と小学校を卒業したステフィとネリィは仕事に就くことになります。ステフィは夢である医者になるため、病院で働きながら学費を貯めようとしています。一方、ネリィの夢はなんなのでしょう。七歳でスウェーデンのこの島に逃れてきたネッリは、人生の大半をここで過ごしてきました。パパの記憶もほとんどないネッリにとって、今の家族との暮らしがすべてなのです。貧しくても、ここで暮らしつづけることがネッリの望みでした。アメリカに移住していた叔母と連絡がつき、二人を迎え入れたいとの申し出をされます。地球の裏側に行けば、経済的に苦労することもないし、教育を受けることもできる。でも、ここで暮らしてきた6年間の日々と、人々との関係もまた、二人にとって大切なものとなっています。さて、岐路に立った二人はどのような選択をするのでしょうか。

人生には激動のシーズンもあれば、心静かに過ごせる時もあります。「この世の果て」だと思っていた場所が、この世の中心だと思えるようになる時がくる。戦争がなければウィーンで家族と一緒に豊かな暮らしができたはずの姉妹は、運命に翻弄されて、スウェーデンで6年もの歳月を過ごしました。その日々もまた、今となっては大切な時間なのです。望んだり、望まなかったり、人生には色々な岐路があって、曲折があります。どこかで道を間違えたとしてもその道だからこそ出会えた人もいる。訳者の解説によると、大戦中にスウェーデンに疎開してきたステフィやネッリのような子どもたちの半数は、そのままスウェーデンに根を張り、暮らし続けているとのことです。どんな日々も、人間にとっては大切な営みである。大変な時間を過ごしても、それをまた喜びの糧にすることができる。時として不運もあり、不幸な出会いもあります。ただ、概ね人の善意があるところ、少なからず幸福はあったのだと思いたいのです。ユダヤ人難民の子どもたちを受け入れた、けっして豊かではなかったスウェーデンの人たち。いくつもの物語のひとつでもある、このステフィとネリィの物語。単行本4冊を通じて、その歳月そのものを味わえる、深い感慨のあるシリーズです。