出 版 社: 学研プラス 著 者: 上坂和美 発 行 年: 2000年06月 |
< コロッケいっぽーん!少女剣士 紹介と感想>
きりこは小学四年生になったばかり。妹の、あみと一緒に剣道を習っているけれど、練習で、あみに一本とられてしまい、いつのまにか妹に追い抜かされていたことへのショックがかくせません。そんなふうに落ち込んでしまった時、きりこは、くまちゃんのところにいきます。くまちゃんは商店街で、てんぷらとコロッケをあげて売る店をやっています。きりこの亡くなったおばあちゃんと、くまちゃんは友だちだったので、きりこは幼い頃からこの店に出入りしていたのです。くまちゃんはいつも、きりこを励ましてくれます。落ち込んでいるきりこに、剣道は勝ち負けではなく、負けない心を鍛えるものだと教えてくれるのです。北海道のおいしいジャガイモを使ったくまちゃんのコロッケは日本一だと言うきりこ。けれど、きりこがくまちゃんのところに出入りしていることに、ママはいい顔をしないのです。ママからはしかられ、妹のようにママに甘えられないことにも、疎外感を感じている、きりこは、ついには家出をしてくまちゃんのところに転がり込みます。「売れのこりや」と、てれくさそうに言いながら、くまちゃんが出してくれる、てんぷらやコロッケをごちそうになって、おなかがいっぱいになったら、きりこにもちょっぴり元気が出てきました。きりこの住んでいるのは大阪のベットタウン。マンションや住宅がつぎつぎに建ってた人口が増えているのに、駅前のみやまえ商店街はささびれていき、シャッターをおろした店が続いています。それは駅前に新しいスーパーができたからなのです。くまちちゃんのお店は駅前の再開発でマンションを立てる計画のために、立ち退きを迫られていました。きりこはくまちゃんが娘を交通事故でなくしていることを知ります。旦那さんと娘との思い出のある、この場所を離れがたい思いでいるくまちゃんを、きりこは守ると宣言します。とはいえ、それは子どもにはとても難しいことです。ここでラッキーな逆転が起きないことがこの物語に深みを与えています。紆余曲折があり、やがて、くまちゃんは決心をし、新しい場所で商売をはじめることにします。形は失われても遺される気持ちはあります。時代の趨勢による変化を受け入れ、痛みを感じながらも前を向こうとする大人をきりこはどう見たのか。きりこもまた、不動の心で、剣道の試合に臨もうと気持ちを新たにしていくのです。
淡々と物語をまとめてしまいましたが、色々とグッとくるところや、哀感のある物語です。コロッケものは、商店街の衰退とセットで語られることが多いのですが、奇跡の逆転劇にはならないことも常套です。子どもの視座から、移りゆく社会や大人の人生が語られ、哀しみもあるけれど、それでも前を向いていこうという気持ちが描かれる爽やかな物語です。タイトルにもある通り、女子剣道モノであることも注目です。