出 版 社: 理論社 著 者: メグ・キャボット 翻 訳 者: 代田亜香子 発 行 年: 2010年03月 |
< 嘘つきは恋のはじまり 紹介と感想 >
もうプロムとか、カフェテリアの一番いい場所を占拠する学校の人気者グループとか、校長にも期待されている体育会系(フットボールかバスケットボール)とか、チアリーダーとかが出てくるようなアメリカの小さな町のハイスクールな話はウンザリだ、と思っている貴方。勉強はできるけれど、地味だったり、変わり者だったり、ゴスロリだったり、魔女だったり、幽霊が見えたりする女の子が、人気者のイケメンにモテはじめる、なんて話を聞きたくないと思っている貴方の気持ちも良くわかります。あの世界観には辟易しているのでしょう。でも、メグ・キャボットの世界は健在で、まだまだ多くのヴァリエーションを生みだしてくるわけで、あのにっくき「ガールズ・トーク」にも当面、耳を貸さなくてはならないわけですよ。アメリカのハイスクール社交界のヒエアルキーは厳格で、非モテ系の人間にとっては地獄的な場所にしか思えませんが、リアル・ティーンにとってはそうした場所で起こるロマンチックなドラマにこそ胸躍るところがあるのでしょう。ということで、色々な意味で避けて通ってはならないメグ・キャボットです。いや、こういうハイスクールライフに憧れる人もいるのだろうし、それがやはり、健全ということなのだろうなと、自分のヒネクレ具合を反省しつつ読み進めます。
コーホグというのは地元名産の貝の名前であると同時に、地元の誇りであるハイスクールのフットボールチームの名前です。ケイティのカレは、コーホグのエースプレイヤーで学校中の憧れです。そんなカレがいながらも、ケイティはイケメンの演劇部の子ともイチャイチャしたりと浮気三昧。美人で頭も良く、いまや学校の中でも良いポジションを得ているケイティなのに、そんな生活を送っているのは、どこか心のバランスがとれていないところがあるからです。本当は、自分が誰を好きなのかわからない。イケメンにはすぐのぼせあがるし、彼らとのキスも大好きだけれど、はっきりしない空虚なものを感じているケイティ。さて、コーホグ主催のミスコンテストで賞金を獲得しようと思っているケイティの前に、彼女の過去を知る男子、トミーが現れます。中学生の頃、ケイティと成績を競いあい、新聞部ではカメランマンのケイティと、記者としてコンビを組んでいたトミー。彼は当時のコーホグのメンバーがその人気に乗じて大学進学テストで不正を働いたことを学校新聞で暴き、町を追放されていたのです。かつての新聞部の仲間でありながら、彼を裏切り、今やコーホグ側のオシャレ人間となっているケイティは、トミーの復讐に怯えています。ところが、見違えるようなイケメンでマッチョになったトミーに、ケイティだんだんとほだされて、嘘を重ねていた自分の本来の気持ちに気づいていくのです・・・。
毎度のように、ああでもないこうでもないと女の子が頭を悩ませ、大混乱しながらも、なんとか落ち着くところに落ち着いて、ハッピーエンドを迎えるメグ・キャボット作品です。頭が軽く、傲慢な「学校の人気者」たちの空虚さが露呈して、勇気のある賢い女の子が勝利する。ここには物語としてのカタルシスがあります。そして色々とタイプの違う男たちが出てくるのだけれど、目覚めた主人公は、本当にイイ男との恋に落ちるわけです。ケイティは昨今のネット用語的な意味での「ビッチ女子」っぽいのですが、最終的には「まっとうな感じ」に落ち着くのはヤングアダルトならではです。ここで通常の倫理感をぶっちぎらないところが良いところかも知れません。ところで、こうしたガッチリとした「ガールズ」向け作品を読んでいると、じゃあ「ボーイズ」向けとはなんなのかなのかと思います。ライトノベルならぬヤングアダルトの世界で積極的に男子を取り込む作品は存在しないのか。論点は沢山あるのですが、まあ、これはまた別の話ということで。