出 版 社: 小学館 著 者: ルイス・サッカー 翻 訳 者: 千葉茂樹 発 行 年: 2018年07月 |
< 泥 紹介と感想 >
ルイス・サッカー作品で、タイトルが漢字一文字となれば、そりゃあ『穴』みたいな物語ではないかと思うでしょ。とはいえ、これまで読んだルイス・サッカーの作品はいずれもタイプが違っていて、『穴』のスピンオフ続編の『歩く』だって、ちょっと肌合いが違っていたのですよね。引き出しの多い作家さんなので、何が出るのかも楽しみのひとつなのです。それぞれ違っていて面白い作品ばかりなんだけれど、この『泥』は、実に思いがけない展開を迎えるストーリーでした。端的に言うと、これは突然変異した細菌による感染が広がっていくというパニック小説です。SFでは頻出する題材で、ゾンビ物も含め、世の中には沢山のバリエーションがありますが、本作はパニック小説と児童文学との折衷が実現した、興味深い作品となっています。ごく小さな、子ども同士の人間関係のトラブルが、世界規模の惨事の発端になるという展開にも驚かされます。児童文学的な心性を描くベースとパンデミックとの掛け算が良いんですね。主人公の少女タマヤが、真摯に目の前のパニック向き合おうとする姿勢や、人を思いやる気持ちなど、その真っ直ぐな気性には好感が持てます。いじめっ子の少年であるチャドが抱えていた屈折した気持ちや、その裏返しな態度など、同じ作者の『トイレまちがえちゃった』を思い出して、グッときました。マーシャルの不甲斐なさだって、親近感が持てるところです。同じく千葉茂樹さん訳の『ブロード街の12日間』のように、時間をおうごとに刻々と状況が悪くなっていく緊迫感。絶望的な状況から見出される活路。そして、人類への警鐘を鳴らし続けようとする物語の問題意識。インサートされていた場面のつながりが次第にわかってくる凝った構成など、見どころ盛り沢山の作品です。