満月の娘たち

出 版 社: 講談社

著     者: 安東みきえ

発 行 年: 2017年12月


満月の娘たち  紹介と感想 >
なかなかのホラーだと思いました。気がつくと自分が人形の大きさになっていて、ドールハウスにとじこめられている、なんて恐怖ではなく(そういう話じゃありません)、別次元の恐ろしいものがここにあります。いや、とじこめられている、という表現は遠くないか。昨今、取り沙汰されがちな、母娘関係を描くテーマは、御多分に漏れず、呪いの話であり、愛情の話でもあります。この二重拘束には覚えのある人が多いのだろうと思います。同じテーマでも、それぞれの物語が見せてくれるものは違いますが、当事者にとっては、いずれもしんどいものではないかと思っています。僕は母親のいない十代を過ごしたし、それ以前に娘ではないので、母娘の愛憎や呪縛について、心の距離を保っていられます。とはいえ、この作品に自分もまた感応してしまって、やや参りました。蓮池のほとりに建っている空き家「昭和邸」。その古い洋館で、ひとり暮らしの年配の女性が孤独死していた、という事実に中学生たちは興味をひかれます。人影を見たという噂もあり、何かが出るのではないかという予感が、子どもたちの好奇心をそそります。そこで肝だめしをとなるわけですが、もっとも幽霊の正体はたいていアレです。そこから物語は動きはじめます。本当に怖いのは、人が死んでも解けることのない呪いです。母子カプセルの共依存状態から逃げようとすることさえ、罪悪感を感じてがんじがらめになる。そんな心理的隘路に、中学生たちの明るい日常が踏み込んでいくあたりがキモです。洋館に住んでいた母親と、家を出た娘の関係性。そこにオーバーラップされる中学生の女子たちの母娘関係。満月の娘たち。月から逃れることはできなけれど、月はずっと見ていてくれる。見ていて欲しいのか。本当の気持ちはどこにあるのか。娘側からその拘束感が語られがちですが、視点を母親側にシフトさせて、娘に気づきを与えるあたり、この物語には、この関係性について諦めていないなという実感がありました。意味を込めてつけられた自分の名前を、呪いと思うか、願いと思うか。志を保つ。志保という昭和チックな名前の中学一年生の女の子の物語。乾いたウィットのある会話が楽しい、明るく、そして恐ろしい作品です。安東みきえさんの作品は、どれも違った意味で怖さがあるのですが、是非、肝だめしも兼ねて読んでもらえると良いなと思っています。いずれも凄い作品なので是非。