シスタースパイダー

Sister spider knows all.

出 版 社: 求龍堂 

著     者: エイドリアン・フォゲリン

翻 訳 者: 西本かおる

発 行 年: 2005年06月


シスタースパイダー  紹介と感想 >
もう読みたかったヤングアダルト作品の「気分」が満載です。登場人物たちのキャラクターといい、状況設定といい、台詞といい、ツボに入りまくりの一冊です。至福の読書時間でした。求龍堂さんのYA作品は、このところアタリが多いのですが、この本、造本も凝っているし、表紙に片山若子さんが起用されているのも良いです(いまや人気の片山若子さんですが、この本が出た頃はまだ、それほど活躍されていなかったような記憶があります)。いろいろな意味で、実に豊かな作品でした。

ロックス(ロクサーヌ)は、十二歳の女の子。祖母のミミと、ミミの甥っ子のジョン(ジョニー)・マーティンと三人の家族。ミミは、夫である祖父が死んでしまってから、すっかり元気をなくしてしまって、更に、ここ一年は車椅子の生活だけれど、口の悪さは健在。それなりに愛のある嫌味には思わず噴きだしてしまうようなユーモアがあって、偏屈だけれど、憎めないおおばあさん。前向きで努力家、ちょっと頑固なジョン・マーティンは働きながら大学に行っている。ジョンには両親がおらず、子どもの頃から育てられたミミのことを、母ちゃん、と呼んでいる。ロックスの母のヘレンは、ロックスが赤ん坊のとき、彼女を置いて出ていってしまったという。ミミもジョンも、ヘレンのことを話したがらないので、本当のところはわからないけれど。きっと、自分が可愛くない赤ん坊だったから、見捨てられてしまったのだとロックスは思っている。ロックスはちょっと太めで、クラスの人気者グループからは見向きもされない。ブタはドレスを着たってしょせんブタ。だから、あたしはいつもオーバーオールを履く。ブタをすっぽり隠してくれるから。そんなコンプレックスに沈んでいるロックスだけれど、ミミと一緒に商売をやっている週末のノミの市では、活き活きとしていられる。ここは、変わり者の大人たちが集まってくる場所。『ここはあたしの縄張り。あたしと、あたしの大切な変人の友達の場所』。ジョンのアルバイトの収入と、ノミの市で「ガラクタ」を売りぬいて、なんとか生活費を稼ぎ出している三人の粗末な生活。そんなところに、ジョンが連れてきたガールフレンドのルーシー。医者のお嬢さんなんだけれど、ちょっと変わっていて大胆で行動的な性格。ミミには、世間知らずと罵られるけれど、自由でおおらかな性格は、どうやら、偏屈なミミも嫌いではないよう。ロックスもルーシーと話をすることで、だんだんと自分の世界を違った角度で見ることができるようになっていく。そうか、私の髪の色は、イヌのフン色じゃないんだ。ロックスもジョンも、自分の親のことには目を向けないようにしている。知ってはいけない真実があるのかも知れない。ロックスは、なにも知らない。ジョンは、自分の胸の中の声を聞くのを恐れている。『彼のことは心配いらないわ。ジョニー(ジョン)は、長いあいだ窓を閉めきってあった大きな古い家みたいなものなの。ちょっと風と日差しを入れるぐらい、彼を傷つけることにならないわ』。ルーシーは積極的に、二人が心の扉を開けるのを手伝おうとする。そして、物怖じしないで、三人の家族の生活に、どんどんと入り込んでくる。ある日、ルーシーと一緒に、ロックスは、屋根裏部屋で自分の母親が、自分と同い年の頃から、自分を生んでいなくなるまでの期間の日記を見つけてしまう。そこには、自分の友達のような、母がいた。果たして、鍵のついた日記帳の中に書かれていたことは・・・。

とまあ、いかにも、YA的なYA作品。『頭と心がちゃんとした会話をしていない』状態が、どう解きほぐされていくのか。ジョン・マーティンは意固地になって、ルーシーのおせっかいを受け入れられず、喧嘩してしまったり。ロックスも母親の本当の姿がわかるにつけて、複雑な思いを抱いたり。まあ、それでも、知りたかったことがわかって、結局、本当に重要だと思えたのは、今の三人の家族がいるということ。自分の心を素直に語ることができるようになったロックスの清々しい姿には、やっぱり、ヤングアダルト小説って、良いなあ、という読後感を与えてもらえます。それにしても、強烈なキャラクター揃いでした。ミミは、リチャード・ペックの『シカゴよりこわい町』シリーズのおばあさんを思わせる豪傑ぶり。脇役一人一人を後で思い出して、いとおしく感じさせるあたりも、素敵な物語でしたよ。

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