スカーレット

わるいのはいつもわたし?
Scarlett.

出 版 社: 偕成社

著     者: キャシー・キャシディー

翻 訳 者: もりうちすみこ

発 行 年: 2011年06月


<   スカーレット  紹介と感想>
スカーレットは、何故、自分の舌にピアスの穴を開けたのか。十二歳の女の子がそこまでやるのには相当の覚悟が必要で、ただカッコいいからというだけではないようです。スカーレットの胸にみなぎっていたのは、この世界への反抗心。スカーレットは怒れる子どもでした。ケチャップ色の髪をして、8センチのヒールの赤いサンダルを履く、名前からして赤く燃える真紅のスカーレットは、今や問題児として、いくつもの学校を放り出され、転校を繰り返しています。ここで注目したいのは、問題児が抱えている心の問題です。複雑な家庭の事情が彼女にはありました。両親が離婚し、パパは家を出て、アイルランドで再婚して新しい家庭を作る一方、スカーレットは忙しく働いているママとロンドンに残されました。幸福だった家庭生活が崩壊してしまった時、子どもはどうふるまったらいいのか。そんな問いに正解があるはずもなく、やり切れない思いを抱えたままのスカーレット。心のバランスをとるためのひとつの選択肢が「荒れる」ことだったのです。スカーレットの扱いに手を焼いたママは、ついにスカーレットをパパのもとで暮らさせることにします。パパはアイルランドの片田舎で再婚した奥さんと、その連れ子のホリーと暮らしていました。果たしてスカーレットは、自分たちからパパを奪った人と一緒に暮らすことなんてできるのか。こうしてスカーレットの試練の日々が始まります。果たして戸惑う心は、何を見つけ出していくのか。曲折の果てに、ちょっとした幸福な結末を迎えますが、そこにいたるまでのスカーレットの心の軌跡が清新に描かれていく物語です。

戦闘態勢でアイルランドの西海岸の町キリモアに乗り込んだスカーレットでしたが、拍子抜けしてしまったのは、パパの新しい奥さんであるクレアと、その娘ホリーがスカーレットを大歓迎して、新しい家族として迎えてくれたからです。とはいえ、そう簡単に打ち解けることはできないのがスカーレットの立場。しかも、クレアのお腹に赤ちゃんがいることを知り、早速、出鼻をくじかれます。これをスカーレットが素直に受け入れるのは至難の業です。さらには人口の少ないこの町では、中学校も小学校もひとつの学校なのです。いまさら小学校なんて勘弁してほしい。スカーレットがそう思うまでもなく、牧歌的な田舎の学校では、都会からきた舌にピアスを開けた少女は異色すぎる存在であるわけです。なかなかこの場所に馴染めないスカーレット。かといって、この小さな町キリモアでは、どこにも逃げ込む場所ない。町を抜け出し、丘を越え、谷を下り、やがてたどりついた湖で、スカーレットはキーアンという黒馬に乗る少年と出会います。この町の子どもではない、どこか秘密めいた少年にスカーレットは淡い恋心を抱きはじめます。キーアンや新しい家族との交流の中でスカーレットの心にやがて変化が兆していきます。人を恨んだり、自分を卑下したり、胸がつぶれそうな気持になったり、そして、何にもかえがたい幸せを感じたり、スカーレットの心模様はさまざまに変わっていきます。そんな移りがちな心の季節を描く物語なのです。

最大限、突っ張っているものの、クレアは本当は両親のことが大好きで、だからこそ家が壊れ、家族のかたちが変わってしまった現在を受け入れられません。全てを受け入れ、和解することを子どもに強いることは無茶です。悪いのは大人であり、勝手な都合で犠牲になるのが子どもです。とはいえ、立ち止まっているよりは、未来を描きだした方が良い。それが当然だとわかっていても、時間がかかります。一足飛びにはいかないものです。本書は小さな事件を通じて、スカーレットの心に少しづつ変化が兆していく様子が描かれていきます。新しい家族や友だちを得た喜びを素直にあらわす。この高いハードルをスカーレットが飛び越えられるかどうか。是非、見守っていて欲しいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。