出 版 社: あすなろ書房 著 者: D.J.ルーカス(サリー・グリンドリー) 翻 訳 者: 千葉茂樹 発 行 年: 2006年11月 |
< お手紙レッスン 紹介と感想>
何か特別な事件が起こるわけではなく、作家とそのファンの少年が手紙を通じて交流していく、いたってシンプルな物語です。きっかけは一通のファンレターから始まります。以前にも、この物語を読んでいたのですが、『ヘンショーさんへの手紙』や、他にもいくつかある、作家と読者の子どもが文通をする物語と頭の中で混同していました。しかしながら、このパターンの魅力は確実にあります。作家は、物語を書きたいと思っている少年のアイデアに、色々なアドバイスを与えます。作家もまた少年から創作のヒントをもらうようになります。交流が深まるうち、次第に手紙の端々から少年の置かれている家庭環境や学校生活などが見えてくるという按配です。作家の名前は、D.J.ルーカス。少年、マックスは男の人だと思っていたのですが、文通していく中で女の人だということがわかります。マックスはルーカスのファンで、手紙で教えてもらえる物語の登場キャラクターや創作の秘密に、いちいち驚き、感嘆します。作家としても理想的なファンではないのかなと思うところです。自分の大好きな作家と親しくやりとりができることを手放しで歓ぶマックスの気持ちが素直でかげりがないのが良いところですし、明るいだけでもいられない少年の毎日を、作家が励ましていくあたりもまた心温まるところです。さて、この本は、D.J.ルーカスという、物語の中の架空の作家が、そのまま著者とされています。そして、彼女は、マックスを登場させた『お手紙レッスン』という物語を書いていると、彼に打ち明けます。つまりこの物語自体が、その本なのではないか、と思い当たって、ちょっとドキッとします。実は物語の登場人物だったマックス、なんてオチがつくのかと思ったのですが、違いました(というか、それが事実なんですけれどね)。物語の中の作家であるD・J・ルーカスの代表作として『ぼくの先生イカレてる』という作品があります。これがなかなか面白そうです。トニー・ロスのイラストがすごく良いんです。イカれてる先生を書いた表紙の絵が、かなり際立っています。