出 版 社: ほるぷ出版 著 者: ブリジット・ヤング 翻 訳 者: 三辺律子 発 行 年: 2022年08月 |
< かわいい子ランキング 紹介と感想>
仮想敵は、女子を見た目だけで判断する傲慢な悪役男子。そんな見た目重視の風潮への批判が込められている物語です。見た目のかわいさだけで女子をランク付けして悦にいっている輩を、女子たちが一丸となって凹ませる痛快な物語ですが、苦味も深みもあります。物語の問題提起は、その是非も含めて「人をどう評価するか」であり、「人に気持ちを寄せて、深く理解する」ことです。見た目ではわからない隠されたものの大きさに気づく、その瞬間のスパークもまた鮮やかな物語です。主人公たちは八年生(中学三年生)で、その思春期真っ盛りの心情は、見た目の問題で傷つけられ、また人を傷つけたことにも傷つく痛々しさに満ちたものです。尊大でもありヤワでもある。傷ついたからこそ、そこから一歩進んで、本当に目を向けるべきものが見えてきます。まあ、なかなか難しい季節であることは、大人の方たちも共感するだろうし、過去の自分の浅薄さや痛みも思い知ることでしょう。「見た目」という要素は大きく、人に強い印象を与えるものです。人は見た目から自由になれないし、逆に、中身を磨くよりは見た目を飾る方が簡単だという考え方もあります。見た目至上主義が子どもたちに蔓延っていると言われる昨今ですが、魂の輝きよりも見た目の方がわかりやすいわけで、イージーな方に流れるのは当然です。とはいえ、ここであえて深淵に迫っていくというチャレンジもまた、思春期の胸を揺さぶるような誇らしさを与えてくれるものでしょう。学校に出回った「かわいい子ランキング」をめぐる騒動は、現代(2023年)のコンプライアンスや子どものセンシビリティに照らすことで、これまでとはちがった感慨を与えられます。現代の感触と、そして時代を越えた真理に貫かれた作品です。
ネットで出回った「フォード中学八年生かわいい子ランキング」。誰が作ったものかはわからないけれど、かわいい女子、上位50人を掲載したリストは、学校の話題をさらいます。なによりも一位に選ばれていたのが、誰もが認める「かわいい子」で、運動も勉強もできるソフィーではなく、地味で目立たない陰キャのイヴだったからです。かといって、これがイヴをからかうための冗談や嫌がらせとも思えないのは、メイクはしないけれど、スタイルが良いイヴの容姿は少なからず目にとまるものだったからです。イヴは、自分にこんなふうにスポットが当てられてしまったことに困惑します。詩を読み、自分でも書いている、ちょっと変わっていて、おとなしい子であるイヴは、学校中でジロジロ見られたり、自分をからかうメールを送りつけられることを迷惑だと思っていました。このランキングは少なからず、同じ学年の女の子たちの気持ちに影響を及ぼします。上位に選ばれたら選ばれたで、選ばれなければ選ばれないことで、自尊心が翻弄されてしまうのです。No.1であることを自認していたソフィーとしては、2位になったことが納得いきません。家が貧しく人から下に見られることに敏感で、周囲の態度の変化も気になってしまうソフィー。彼女は以前に付き合っていたブロディが、今度はイヴに近づきたいために、こんなランキングを作ったのではないかと思い至ります。実際、見た目が良いし、恵まれた家の子だし、さらにカッコをつけたがるブロディですから、イヴをランキング1位にして、自分に相応しい子にしたかったのではないか。このランキングは学校でもハラスメントととして問題にされます。もはやジョークとして受け流される時代ではないのです。それぞれに傷ついた女の子たちは、学校でのスタンスの違いを越えて、傲慢で身勝手なブロディを締め上げるために共闘することを誓います。学校ミュージカルの主演に選ばれたブロディの、その悪事をステージ上で暴くため、イヴやソフィー、演劇部のネッサは協力して真相に近づこうとします。普段は交わることがなかった違ったタイプの子たちは、互いに偏見を抱いていたことを気づかされ、新しい友情で結ばれていきます。単なる見た目の話だけではなく、広義での「外見」と、それを装う子どもたちの心理と、そこからの解放を描く物語です。
人に値踏みされて、安く見られることは心外なものです。勝手に分類されてラベルを貼られることも腹立たしいでしょう。それは人の目には触れない豊かな源泉が自分の中にはあるのだという誇りがあるからかも知れません(その自信が揺らぎがちなのも思春期ならではですが、大人になってもあまり変わらない気もします)。イヴはディキンソンの詩が好きで、枠に収められないその感性を尊んでいます。日本の作品で、現代の高校生が新川和江さんの『わたしを束ねないで』に影響を受けるお話もありましたが、自分を括られたくない気持ちはグローバルなもので、自由な詩のスピリットに涵養される気持ちはありますね。イヴもまた詩を書きます。彼女がむける透徹したまなざしは他者を深く理解し、自分のありたい姿を描いていきます。それは、ありていな常套句で、人を一刀両断にするようなものではありません。表現をこらしたイヴの詩こそ本書の読みどころです。単純なスケールでしか人を測れない人もいれば、人の豊かな資質に永久に気づけない人もいます。そんな連中のことは無視してもいいのです。どう見られるかよりも自分がどうであるかの方が重要です。とはいえ、人の乱暴な視線にさらされると気持ちが揺らいでしまうものですね。これは、評価されることから逃れられない大人もまた感じている悲哀でしょう。自分の内面に誇りを持つことは永遠の努力目標だとは思います。自分の内なる豊かさに磨きをかけることに子どもたちの目が向けられるあたり、清々しい読後感を得られる一冊です。さて、この物語に登場する悪役男子ブロディはなかなか味わい深い存在です。傲慢で意地悪で偏見の塊のような子ですが、見た目の効果もあって、垣間見せるその優しさに、つい好意を抱いてしまう女子もいます。そして、実は寂しさを抱えているのではないかとか、同情したくなっちゃうのは、やはり外見がカッコいいからですよ。そんな彼ですが、どうも周囲からのイメージ通りのイジワルな悪役男子を装っているフシがあるのです。自分をどう見られたいのか。キャラの枠に自分を押し込んでしまう心境についても考えさせられます。悪役男子たちの内側もまた、存外、味わい深いものかも知れません。