ぼくたちは幽霊じゃない

VIKI CHE VOLEVA AVADARE A SCUOLA.

出 版 社: 岩波書店

著     者: ファブリツィオ・ガッティ

翻 訳 者: 関口英子

発 行 年: 2018年11月


ぼくたちは幽霊じゃない  紹介と感想 >
政情が不安定で仕事がないアルバニアから出稼ぎに出ていた父親に呼び寄せられて、小学二年生のヴィキは、母親と幼い妹とともにイタリアへと向かいます。密入国を斡旋する業者に高い料金を支払い、黒いゴムボートに乗って、荒れるアドリア海を渡る危険な航海を経て、やっとのことで着いたイタリア。ミラノで父親と合流することはできたものの、正規採用されていない父親は滞在許可証がなく、まともな部屋を借りることができないため、家族は工場の横の敷地のバラックで暮らすことになります。ネズミが走り回る不衛生な住居。警察に捕まれば、国に強制送還されてしまう不法滞在者という立場。低賃金でこき使われ、搾取されても文句ひとつ言うこともできない弱みを抱えている。それでも自分の国にいるよりはマシなのです。現実にここにいるのに、幽霊のようにしか存在できない不法滞在者たち。同じ人間でありながら、その権利を認められることのない存在。少年の目を通して描かれる、世界のどこかにある厳しい現実です。唯一の希望は、それでも子どもたちには教育を受けるチャンスが与えられていたことです。ヴィキは学校に通い、少しずつ言葉を習得していきます。こうした不法滞在の子どもにも等しく教育を施そうと努力する学校の先生たちの思いも熱く伝わってくる作品でした。身近な現実として、移民をどう受け入れていくべきか、それぞれの心の姿勢が問われるところかと思います。自分たちの利権を脅かす移民を嫌い、排斥しようとする人も多い世の中です。自分も実害がないから鷹揚に考えているだけかも知れません。ただ、知ることで、歩み寄ることもできます。こうした他の国に渡らずを得ない立場の人たちを描いた児童文学作品が、子どもたちにもこの社会の現状を考えさせる契機になると思います。