ココロの花

こんな部活あります。(華道部&サッカー部)

出 版 社: 新日本出版社

著     者: 八束澄子

発 行 年: 2024年01月

ココロの花 紹介と感想>

「こんな部活あります」という中学生の部活動の楽しさを紹介する児童書シリーズの一冊目で「華道部&サッカー部」がテーマになっています。こうした企画物となると物語に児童文学的な深さを求めるのはお門違いかと思うのですが、ここで正統派児童文学作家である八束澄子さんが登場という驚きの一冊であり、そして、やはり一筋縄ではいかない児童文学やヤングアダルト文学の気配が感じられる作品となっています。中学一年生の女子、風花(ふうか)は、入学式で壇上に飾られた生け花にインパクトを受けます。『命の躍動』と名付けられたその花に感動したことが、彼女が華道部に入部するきっかけとなります。顧問の大河内先生の熱血指導を受けて、華道の基本を学んでいく風花。彼女には一緒に暮らすおばあちゃんにお花を見せてあげたいという優しい気持ちがあります。おばあちゃんとお母さんは言い争うことも多く、それを気に病む風花は、おばあちゃんに優しくしたいと思いながら、時折、自分も苛立ってしまい、おばあちゃんにあたることもあります。両親は離婚して、母親と祖母との三人暮らしは上手くいかないこともあるけれど、風花は家族の和と、生花の調和に共通点を見出していきますが、ギクシャクすることも多いのです。思春期の棘をところどころのぞかせる風花。教室のはじっこにいるタイプで、コロナ禍の頃の黙食給食がありがたかったというような子ですが、実は芯がある子なのです。同じ華道部の子たちが、高校生の「お花甲子園」に憧れて文化祭の出しものにしようと盛り上がるのに、それにも疑問を感じてしまうのです。文化祭実行委員になり「お花甲子園」を推進する立場でありながらも、すっきりしないのは、お花で競争するということに風花は納得できないからです。そんな風花の気持ちを感じとっているのが、同じクラスの男子、壮太です。この物語のもう一人の主人公であり、ごく真面目にサッカーにうちこんでいる明るく素直な少年です。彼のサッカー部で活動が、風花と相互に語られるもうひとつの物語の柱となっています。ちょっとしたきっかけから、壮太と風花は言葉を交わすようになり、お互いのことを気にかけるようになりますが、その関係の初々しさもまた読みどころです。北海道で一人暮らしをする風花の父親が、脳梗塞で倒れるエピソードなど、風花の揺れる思いや苛立つ気持ちが描かれ、中学生の部活を楽しく紹介するという企画のフレームには収まらない物語要素があります。壮太と風花、それぞれの物語が近づき、淡くクロスしていく巧さ。努力を重ねて試合に勝ち、勝利に喜ぶ壮太と、勝負ではない華道に想いをこめる風花。その風花らしさをわかっている壮太など、この部活紹介物語の奥行きに驚かされるのです。