出 版 社: 幻冬舎 著 者: 深沢美潮 発 行 年: 2002年07月 |
< サマースクールデイズ 紹介と感想>
以前はあだ名で呼びあっていた親友が、なんとなく最近、疎遠だなあと思っていたら、ある日を境に完全な敵対行動をとるようになる。そして、ある朝、登校してみたら、自分のグループから完全に無視されてしまう。一体、自分が何をしたというのだろう。「クサイ」「ウザイ」と言われて嫌がられるから、毎朝、シャンプーも欠かさず、髪の毛だってショートカットにしたのに。だんだんと学校に行くことが苦痛になり、滅多に登校しなくなる。必然的に他の中立のクラスメートたちとも距離ができて、名字に「さん」づけでしか呼ばれなくなるし、他の子たちも「延焼」を恐れてか自分には近づいてこなくなる。おそらく、全国の教室には、こうしたドラマが沢山転がっていて、今も独りで闘い続けている子どもたちがいるのだろうと想像しています。関係を修復できることもあれば、結局、無視され続けたまま、学校生活を終えた子もいるのでしょう。孤高を気取れれば良いのですが、そもそも、自分が無視される「理由」がわからないから、誇り高い自分を貫くこともできないのです。これは、そんな落ち込んだ学校生活を送っている女子高生の一人である、千里(ちさと)の物語です。幼なじみで、かつては親友だった瑞穂に無視され、敵対されるようになってから、学校も休みがちになっていた千里でしたが、夏休みにインターナショナルスクールが主催しているサマースクールに参加することになります。自分に自信を失い、高校で新しい友だちを作ることもできなくなった千里の事情を母親は知ることもなく、千里が引っ込み思案なだけだと思っていました。サマースクールに参加すれば、英語の勉強もできるし、積極性を身につけてくれるのでは、と期待を持たれてしまいます。知らない人たちの間に入っていくことに気後れしている千里。しかも、このサマースクールの会場に着いて見ると、最悪なことに、瑞穂や同じ高校の彼女のグループの子たちが参加していたのです。こうして前途多難な千里のサマースクールデイズがはじまります。
相変わらず、瑞穂たちからは無視され続ける千里ですが、大阪からきたというユニークな女の子、有紀と友だちになり、また、このインターナショナルスクールの生徒で、アシスタントをつとめる格好いい男の子、ジェラルドとも親しく接することができるようになります。サマースクールでの授業は、ともかく楽しく英語を学習しようというもの。先生もすべて英語で話しかけてきます。ドキドキしながらもコミュニケーションする千里は、思いのほか先生ともうまく会話ができ、千里のまわりには有紀以外の子たちも集まってきます。状況は好転したまま、スクールの課程も佳境に入り、英語のスピーチコンテストの予選が近づいてきました。各クラスから代表が選ばれ、大会で発表するのです。新しくできた友だちたちと、楽しく過ごせるようになり、千里に気があるらしいジェラルドのことでからかわれても、そう悪い気はしません。ところが、急に高熱を発した千里がサマースクールをお休みした翌日、登校してみると、どうも雰囲気がおかしいのです。どうしたわけか新しく友だちになった有紀たちのグループから、千里は無視されてしまうのです・・・。スピーチコンテストの予選を勝ち抜いてしまった千里は、自分の飼っている犬の話をしますが、原稿にない台詞、「そして・・・動物の友だちだけではなく、なんでも相談できる、人間の友だちも作りたいと思います」を付け足そうとしながら、結局、その言葉を飲み込みます。失意に満ちた千里の胸を塞ぐ思い。しかし、ジェラルドから千里は意外な話を聞かされます。何故、自分が有紀たちから無視されたのか。また、ジェラルドが自分に好意を持っていることを打ち明けられて・・・。早く有紀たちと会いに行かないと、とりかえしがつかなくなる、千里の胸に希望の灯がともり始めます。
アップダウンのはげしい物語ですが、ここで千里には、ひとつの「気づき」がありました。自分がこれまで、何も自分で決められなかったこと、ただ引っ込み事案で、お母さんに、そして、以前は瑞穂に、全部、面倒を見てもらっていたこと。優柔不断な自分自身の態度が人にどのように思われていたのか。例えば、瑞穂にとって、自分はどんな存在だったのか。千里は人の気持ちにまで思いが及ばなかったのです。このサマースクールを経て、千里は再び瑞穂と真正面から対峙します。そして、互いの真実の気持ちを交換しあいます。ちょっと、出来すぎで、すべての学校での「いじめ」が、こんなきれいに解決できるものとは思えないし、もっと低次元な「いじわる」の可能性もあるのだろうと思います。とはいえ、物語にはどんな窮状にも救いはあるのだという希望が描かれても良いのだと思うのです。『フォーチュンクエスト』などのライトノベルで知られる深沢美潮さんのヤングアダルト作品です。きっちり内容が収まりすぎた感がありますが、読みやすく、とても真っ直ぐな物語です。元は幻冬舎から一般書として発行されていた本ですが、後にポプラ社(ジャイブ)のピュアフル文庫の一冊となりました。なんとなく、この本の最適な居場所が見つけられたようで不思議な気もする転籍でした。