ガール!ガール!ガールズ!

It’s a girl’s world.

出 版 社: ポプラ社 

著     者: 宮下恵茉

発 行 年: 2009年06月

ガール!ガール!ガールズ!  紹介と感想>

「ガールは一日にして成らず」とか「ガールの魂、百まで」とか、読後の僕の頭の中には色々と謎のフレーズが浮かんでいます。ガールであることの恍惚と不安は僕のような中年男にはかなり縁遠いところですが、かなり感じ入るものがありました。この作品、重いパンチはないものの、ボディブローが正確に入り続けて唸らされます。スケールは小さいながらも見事に完成されているのです。小さな世界の中で奮闘しながら、今を生き抜いているガールたちにエールを送る物語。ポイントは「軌道をはずれない」ことです。真っ当で真面目な子である主人公は、周囲からハズされないように、学校では極度に気を使っています。絶妙なバランス感覚を駆使して世界と融合しようとしています。もとより、この世界から突き抜ける気はありません。それでも、もう少し自分の居たい場所へ。自分を実現できる世界へ行きたい。そんな気持ちを持ちながらも、自分の足場が崩れはじめてきたら、それどころじゃない。さて、中学二年生、十四歳の等身大の闘いがはじまります。ガールの世界のスケールは小さい。けれど、その小宇宙は小さな勇気に満ちあふれているのです。

イスとりゲームのように、いつか自分がハズされる順番がやってくる。女子中学生の日常は緊張感に満ちています。ハズされないためには、メールの返信も怠ってはいけない。早ければ早いほどいい。ゆるめのテニス部とはいえ、女子の人間関係はなかなか難しいものがあるのです。細心の注意を払いながら学校生活を送っている十四歳の普通の女子、木内日菜は、学校一のカッコいい男子から声をかけられるという、まるで「昔の少女漫画」のような事態に遭遇したために、不可抗力のうちにテニス部の仲間内からハズされることになってしまいます。ふいに足元をすくわれてしまったのです。あたり前だった世界に裏切られた時、見えてくるものは何か。その先の日菜の世界には新しい出会いが待っています。日菜は「公園デビュー」を恐れる若い母子と遭遇したり、同級生や、お母さん、お姉さん、これまで気にとめていなかった他の人の気持ちに心をシンクロさせていきます。さて、悩めるガールのスピリットを抱えながら、日菜はこの世界にどのように立ち向かっていくのでしょうか。

これは「大人になったら自由になれると思ったら大間違いで、一生、ガールズワールドから抜け出せないんだからね」という過酷な宣告です。ただ、この世界は、そんなふうに生きにくさを抱えたガールズたちが奮闘してきた歴戦の場所なのです。「変わりもの」になって、この世界を下りてしまうという選択肢をとらない勇気。軌道をはずれずに、この世界と協調していくこと。つまり、主体性をもって、ガールであることを意識した時、そこにもまた歓びがあるのです。流れにさからわないながらも自分を失わないこと、が大切なのでしょうね。学校のアウトローにはなりきれない、心のアウトローの主人公女子を擁した国内YA作品を昨今、良くみかけるところです。現時点で、もっとも共感を呼ぶ主題なのかも知れません。変化球を使わない直球勝負のこの作品は、ケレン味のないままに、丁寧な文章や、構成の巧さなどで、実に読ませるものとなっています。ガールの道はイバラ道。歴戦の猛者ガールこそが世界を制していくのです。