ハンター

Hunter.

出 版 社: 偕成社 

著     者: ジョイ・カウリー

翻 訳 者: 大作道子

発 行 年: 2010年06月


ハンター  紹介と感想 >
文句なしに面白い本です。最後の最後まで続く緊迫感。二つの物語が一つになり、歴史の流れが浮かび上がってくる。二百年の時を隔てたドラマの結末には思わず感嘆します。1805年のマオリ族の奴隷の少年、ハンターと、2005年に生きている少女、ジョーダン。場所は同じニュージランドの三日月の湾で、二人はそれぞれの時代にそれぞれのトラブルに遭遇しています。ハンターは幼い頃に自分の部族が抗争に敗れて、ただ一人生き残ったところを敵部族に奴隷にされ、蔑まれながら育ちました。辛い暮らしながら、内なる目によって、見えないものを見ることができる力を持っていることが、ハンターの心を支えていました。絶滅寸前の幻の鳥モアの居場所が直感でわかったハンターは、三日月の湾と呼ばれる場所に部族の首領たちを案内したところ、そこで、ある女の子の姿を白日夢に見ます。月の光のように弱々しく、青い瞳をした白い肌の少女。彼女が二人の弟たちとともに、この三日月の湾の近くで危機的状況にある。それは、遠い未来の写し絵でした。2005年、ジョーダンは弟たちと乗っていたセスナ機で、嵐に巻き込まれて墜落します。子どもたちは無事だったものの、パイロットは絶命し、弟の一人は腕にひどい怪我を負っています。はるか未来で窮地に陥っている少女に、ハンターはなんとか、自分の意思を伝えようとします。時間を超えて、つながる二つの魂。ニュージーランドの歴史的背景や自然の生態系、神秘的な力。そして少年と少女の真っすぐな心が物語を彩る、魅力的な脱出劇です。

墜落したセスナは海に沈み、通信手段も医療品も食糧もライターもない。弟の一人は酷い怪我を負っている。助けを求めることができないまま、ジョーダンは、それでも姉としてなんとか生き延びる手段を探していきます。自然の中での生活のノウハウなどないはずなのに、時折、ジョーダンの頭には、どうしたら良いのかイメージが浮かぶのです。それは薬草の利用方法であったり、魚の仕留め方であったり。それはマラマ、と自分のミドルネームに、呼びかけてくる声が教えてくれたこと。姿は見えないけれど、その声を信じて、ジョーダンはこの窮地を脱しようとします。一方、少年ハンターもまた窮地に陥っていました。頭に浮かぶマラマ(月の少女)を救いたいと思いながら、この同じ場所にとどまることができなくなっていたのです。奴隷生活からの逃亡の好機を逃さないためには、すぐにもこの地を離れなければなりません。じきに屈強な追手がやってきて、捕まれば残酷な殺され方をすることは必至。けれど、この場所にいないと窮地の少女に意志を伝えることができない。物語は沢山の制約条件の下、綱渡りで、主人公たちの命をつないでいきます。混血が進み、外見は白人のように見えるけれど、ジョーダンもマオリ族の血を引いていました。時代を越える神秘的な力もまた荒唐無稽ではなく、リアリティをもった説得力がある。手に汗握って、主人公たちを応援したくなる物語です。

虎口からの脱出劇や、不時着や漂流モノの魅力もまた存分に味わえる作品です。都会っ子が自然の中に放りだされて、どうやって生き延びたらいいのか。姉弟たちは『スイスのロビンソン』についての話を交わしているのですが、どうやらロビンソン・クルーソーのことは知らない様子(『スイスのロビンソン』は『不思議の島のフローネ』としてアニメ化されていますが、原作では男の子の兄弟だけで、フローネはいません)。で、現実の漂流や遭難は、あんなに甘くないぞと毒づいたりしているわけです。十五少年をはじめとして、墜落事故で生き残った少年が必死で逃げのびる話や、森の木の中に隠れ住む少年の話など、色々と物語のヴァリエーションが思いだされますが、(現実には洒落にならない話ですが)子どものロマンを存分にくすぐる話だと思います。釣りざおを作るのにも一苦労して、今度は釣り上げた魚をどうやって食べたらいいのかにも戸惑う。最大の課題は火をどうやっておこすか。2005年のジョーダンは、1805年の少年からのアドバイスを受け取り、うまくやれるのでしょうか。実にわくわくする作品です。僕も子どもの頃、『サバイバル』(さいとうたかおさんの漫画)などを読んで血を昂ぶらせていましたが、今は、己の生命力のなさを実感しているので、トラブルのないことを祈るばかりです。

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