希望のいる町

Hope was here.

出 版 社: 作品社 

著     者: ジョーン・バウアー

翻 訳 者: 中田香 金原瑞人

発 行 年: 2010年03月


希望のいる町  紹介と感想 >
「希望のある町」ではなく「希望のいる町」というのがポイントです。つまり「希望(ホープ)」は人の名前なのです。彼女は十二歳の時、自分でホープと改名しました。なぜって、お母さんがつけてくれた本当の名前は「チューリップ」なんて恥ずかしいものだったからです。どうかすべてがうまくいきますように。ホープは自分で名付けた名前に願いをこめます。お父さんが誰なのかわからず、お母さんからも捨てられて、腕のいい料理人であるおばさんのアディに育てられたホープ。アディに連れられて色々な町を移り住み、学校の友だちともすぐ離れ離れになってしまってばかりの彼女には、いつも「希望」が必要だったのです。だまされてお金を失ってしまったアディと一緒に、ウィンコンシン州のマルハニーに移り住んだ時、ホープは十六歳になっていました。人口、約五千五百人の町、マルハニーの小さなレストラン「ステアウェイズ」に、アディは料理人として雇われ、ホープも学校に通いながら、そこでウエイトレスとして働くようになります。十四歳からウエイトレスのアルバイトを続けてきたホープは、だんだんとその職業的才能を発揮しつつありました。この場所で、ホープは深く大きな愛情を得ることになります。いつも自分のいた場所に「希望がいた」ことを刻んでいく少女、ホープ。彼女の瞳がとらえた愛しい人たちの物語『希望のいる町』。ニューベリー賞のオナー受賞作です。

アディとホープの二人が勤めることになったレストラン「ステアウェイズ」の店主、G・T・ストゥープは、頭がつるつるにはげています。彼は白血病で治療のために髪が抜けてしまっているからなのです。G・Tはアディを雇い、自分が料理人であることを止め、町長選挙に打って出ることを決意していました。白血病であることがわかってから、彼は残された自分の命をかけて、この町を変えていこうと考えていたのです。ホープをはじめとしてレストランの従業員たちは、G・Tの選挙戦を応援していきます。正義感が強く、情に厚いG・Tは、みんなの信望を集めるに足る人物です。対立候補からの卑劣な妨害工作に負けず、住民たちの信頼を得ようと運動していくG・T。政治経験もなく、自分の健康状態も保証できないけれど、でも、この町に渦巻く不正や不公平と闘う気持ちだけはある。果たして選挙選は、どのような結果を迎えるのでしょうか。ホープの周囲には、そんな矜持に溢れた大人たちが、沢山、いてくれます。おばのアディも誇り高い料理人です。自分が納得いかないメニューは、例え美味しいと言われようとも客には出したくない。宣教師や、選挙アドバイザーや、警察官、それぞれが自分の特性を生かして活躍していくのも楽しめるところですね。

これは働く人たちの凛とした心意気が清々しい物語です。悪い大人も出てきますが、善意を持った大人たちが胸のすくような行動力を見せてくれます。確固たる信念を持った大人たちは格好良く、その姿に打たれて、ティーンエイジャーたちも勇気を振りしぼります。そんな背筋の伸びた物語。色々な「尊さ」ということを考えさせられます。ウエイトレスという仕事に誇りを持っているホープ。彼女は実に有能です。ホープは自分を捨てていったお母さんに対して複雑な感情を抱きながらも、ウエイトレスという同じ職業人としては母親をリスペクトしています。職業への誇りや、自尊心の大切さに主人公が満たされていくのは、やはりジョーン・バウアーの『靴を売るシンデレラ』とも共通しています。サービス業で才能を発揮することができる、優れたホスピタリティやサービスマインドの持ち主であることも同じです。働く人たちが誇りを持って生きている姿には魅力がありますね。だから、そんな「仕事の鬼」たちの恋愛なんてものも、けっこう微笑ましくて、祝福したくなるのです。ホープが同じレストランで料理人見習をしている少年に仄かな好意を抱くティーンらしさも面映ゆいし、ましてや不器用な中年男女のテレくささときたら、もう耐えられません。そんな愛しい人たちの働くレストラン。辛かった時間は、いつか幸福な時間を迎えるためにあるかも知れない。けれど、幸福な時間も永遠ではありません。幸福な時間のまま時計は止まってはくれない。それでも、希望はここにいる。実に胸を打たれる物語なのですよ。

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