出 版 社: 講談社 著 者: 服部千春 発 行 年: 2021年06月 |
< ママは十二さい 紹介と感想>
12歳の時の自分に言ってやりたいことと言えば「カウンセリングを受けろ」です。色々とメンタルバランスを崩していた時期なのですが、その状態を人に助けてもらうということなど思いもよらなくて、黙って迷走していた頃でした。なんとか子ども時代を逃げ切って大人になったものの、三十半ばでメンタルダウンしたのは、子ども時代に未解決なままだったものが燻っていたからではないかと思います。まあ、後悔してもどうにもならないのが子ども時代というもので、やり直したいことばかりのような、あの時間には戻りたくないような、そんな複雑な感情を抱いています。さて、この物語は、主人公の12歳の女の子、まどかの40歳のママ、すみかが、12歳の子どもに戻ってしまうというキテレツな展開をします。中身はそのままで、外見だけ子どもの姿になってしまうのです。シングルマザーで家計を支えているとはいうものの、幸いママはライター兼児童書作家という職業であったために、子どもの姿のままでも仕事ができる。とはいえ、家でじっと大人しくもしていられないのが、12歳になったママなのです。何故、ママは12歳になったのか。その「魔法」はどうすれば解けるのか。好き勝手なママの行動に翻弄される、リアル12歳のまどかの戸惑いが面白いところですが、12歳に戻ったママの心情に寄り添ってみるのもまた楽しいところです。
私立の小中一貫校、あけぼの学園に通う白川まどかは、12歳の六年生。まどかのママは、ライター兼児童書作家の白川すみかです。いつも物語のネタにされ、事実もそうじゃないことも、まるで自分のことのようにママのファンである同級生たちに知られてしまうのが悩みどころでした。今回もママは新作の「12歳の恋する魔女」の構想を練りながら、まどかにヒアリングしますが、まどかとしてはそんな気持ちを打ち明けようもありません。年頃の女の子の気持ちが分からず、行き詰まったママは、初詣の祈祷で、いっそのこと自分を12歳に戻して欲しいと願をかけます。すると翌朝、ママは中身はそのままで、12歳の姿に戻ってしまったのです。戸惑うまどかを尻目に、これを好機とママは自分勝手に動き始めます。近所だけならまだしも、まどかの通う学校にも、まどかの従姉妹を装って転入するという大胆な行動に出ます。困ってしまったのは、まどかです。ママだということを誤魔化すために、うっかり、ほのかという名前で呼んだことで、ママは、ほのかを名乗ることになります。実は、まどかはママのように自分でも物語を書いており、そのペンネームが、白川ほのかだったのです。そして、応募していたU15文学賞で優秀賞を受賞するという快挙を成し遂げますが、今はママが、ほのかであり、より複雑なことになっていきます。まどかの密かな恋心をママに知られてしまったり、ママのファンである同級生に秘密がバレそうになるのを、なんとか取り繕ったりと、ドタバタの楽しい物語は続きます。果たしてママはいつになったら大人に戻れるのでしょうか。
ママを元の大人に戻すために、まどかは調査をはじめます。まどかの幼なじみの男子、亮のお母さんは、ママと小学生の頃から同級生で、小学六年生だった頃のママは、今と違って、大人しい性格であまり友だちもいなかったと教えてくれました。祖母からもママは優等生で本ばかり読んでいた子だと聞かされます。初詣でに行った八幡神社で、祈祷を手伝っていた宮司の娘で巫女の茜さんに相談をしたところ、ママには12歳の頃に心残りがあって、大人に戻りたくないのではないかという推論に至ります。やがて、まどかは、小学生の頃、ママの唯一の友だちだった少年が、引っ越しをした先の神戸で、阪神大震災で亡くなったという話をママから聞かされるのです。なにも言わないまま引っ越してしまったまま亡くなった彼のことが心残りでママは大人に戻らないのではないかと、まどかは考えますが、ここでもう一波乱がまき起こります。ママと一緒に一貫校の中学に進学して、憧れの先輩とペンクラブで活動したり、同級生との友情や恋模様なども織り交ぜながら物語は展開していきます。いつも自分勝手でマイペースだけれど、強い味方であるママとの学校生活や、人気児童書作家の娘で自分も創作の才能があるまどかの境遇はなかなか羨ましく目に映るのではないでしょうか。そして、大人もまた、子ども時代の未解決な問題を抱えたままだったりすることを、子どもが知るあたりも含蓄がありますね。ところでママの名前は「すみか」で、娘の名前は「まどか」です。この連関に気づいた方は「ほのか」が気になるかと思いますが、実際は「さくら」でしたね。いや、僕は「ほのか」の可能性もあるのではないかと思っていましたが(2023年2月現在)、未来のことはわからないものです。