出 版 社: 評論社 著 者: ジョン・ファインスタイン 翻 訳 者: 唐沢則幸 発 行 年: 2010年10月 |
< ラスト★ショット 紹介と感想 >
「ちびっこ記者」が大活躍して、事件も解決というお話です。いや、十三歳は、ちびっこというよりは、もう少し上の感じなので、「子ども記者」というべきか。スティービーはバスケットボールの大ファンで、自分でもプレイをしますが、むしろ記者としてバスケの世界に関わりたいと思っていました。彼が十四歳以下の「記者コンテスト」に応募した原稿は、見事、優秀賞を受賞して、ファイナル・フォーと呼ばれるカレッジバスケットボールの優勝・準優勝決定戦の記者章(取材パス)を勝ち取ります。スティービーは、大人の記者に混じって、このビックイベントを取材できる栄誉に胸を高鳴らせていました。同じ賞を受賞した女の子、スーザンも同じ十三歳。背が高くて、高校生でも通りそうな外見。背の低いスティービーと並ぶと姉弟にしか見えない。スティービーは自分とは違う観点を持ち、違った対象の記事を書くスーザンにライバル心を燃やしていきます。さて、毎日、原稿を仕上げなくてはならない二人は、取材活動を続けるうちに、偶然、カレッジバスケのスター選手が脅迫されているところに立ち会ってしまいます。どうも誰かに、決勝戦でわざと負けるように脅されているようなのです。スター選手を助けたいという気持ちと、特ダネを得たいという気持に動かされ、二人は協力して、あちらこちらに忍び込んでは調査を始めます。果たして、悪い大人たちの陰謀から選手を守ることができるのか。二人の子ども記者の活躍はいかに。エドガー・アラン・ポー賞受賞作品です。
スリルと事件の謎が解けていく面白さ。カレッジバスケットボールの大会であるファイナル・フォーの華やかさと、バスケットについてのディテール描写も魅力的です(コーチや記者などの登場人物たちは実名の有名人だとか)。こんなにもバスケットボールというスポーツは面白いぞ!というスピリットが、プレイヤー側ではなく、ゲームを見るファンの視点から描かれていきます。そして、才能を認めてもらった少年少女が、大人の世界に一歩踏み出すパスをもらう。有名な選手やコーチ、そして記者にも会って話ができる。思わず浮足立ってしまうような、彼らの興奮が伝わってきます。好きなチームを応援するのではなく、記者としての公平性を持って報道することを肝に命じたり、ちょっと子どもっぽっく意地をはっていたスティービーが、スーザンが記事を書く才能を認めていくあたり、物語の中で成長していく姿もいいんですね。それもまた、大人への一歩という感じです。ともかく未来への希望にあふれている物語でした。
スティービーやスーザンの興奮ぶりを見ていて思い出したのは、以前に某ネット書店の仕事をしていた際に、インターンシップの学生さんたちにきてもらった時のことです。まだ社会人ではない彼らに、社員同様の仕事をしてもらうのですが、(多少、彼らにはネットビジネスへの憧れがあったらしく)その熱に浮かされたような仕事っぷりと目の輝きが、すっかりくたびれた社会人である僕には眩しかったものです。そういえば、僕も高校生や大学生の時に、放送局のスタジオで、プロのスタッフさんにお世話になって、色々な体験をさせてもらえる機会がありました。あの時、僕の目は輝いていたのか(すくなくとも浮足立っていた記憶はありますが)。本書は、そんな忘れてしまいがちな、胸踊るような気持ちが凝縮した作品です。将来、憧れの職業について、その第一線で活躍する、なんて夢は描きにくい時代かも知れませんが、諦めるのはまだ早いぞと、やっぱり子どもたちには言いたいんですよね。