ルーミーとオリーブの特別な10か月

RAISING LUMIE.

出 版 社: 小学館

著     者: ジョーン・バウアー

翻 訳 者: 杉田七重

発 行 年: 2021年11月

ルーミーとオリーブの特別な10か月  紹介と感想>

直近のニュースで(この文章は2022年2月に書いています)、若者への水道修理の高額請求トラブルが頻発しているという報道がありました。ちょっとしたトイレの詰まりなどで、修理を依頼したところ、タンクの交換などの工事費で数十万の請求を受けた事例が紹介されていました。その処置が適正だったかどうかはわからないものの、自分でそうしたトラブル状況に対応したことがない一人暮らしの若者が、ネットで検索して、上の方(広告)に出てくる業者に依頼すると、悪質な業者もいて、非常に費用のかかる措置をされることもあるという事例でした。これが高齢者ではなく、若者が、というあたりがポイントです。逆に若い人の方が臨機応変な対応ができないという盲点でもあります。論旨としては、消費者側の賢明な判断が求められるというところなのですが、まあ、業者も業者ですね。先日、自分の家で電気工事をお願いした業者さんが、ちょっとイレギュラーな案件にも関わらず、適正価格で工夫に満ちた対応をしてくださったことがあり、感じ入るところがありました。修理が完成した際の業者さんの満足そうな顔も印象的でした。「なるべく多くお金を得る」ということがビジネスの本道であり、それが不当請求でなければ、悪いことではありません。一方で「より良い仕事」をして人に喜んでもらえることを矜持としている人たちもいます。ジョン・バウワー作品には、いずれもそうした優れた仕事をする人たちのスピリットが貫かれています。今回は、水道の配管修理工に焦点が当たっているので、あまり良くない業者のニュースと比較して考えさせられるところがありました。優秀な配管工だったパパの娘であるオリーブが挑んだのはパピーウォーカーですが、そこにはパパと同じ誇り高いスピリットが受け継がれているのです。

ヶ月前に配管工だったパパを病気で亡くした十三歳のオリーブ。小さな頃にママも交通事故で亡くしていたために一人きりになってしまった彼女と一緒に暮らしてくれることになったのは、十二歳歳上の異母姉のモーディーです。これまで会ったことがなかったモーディーとオリーブが顔を合わせたのは、パパが亡くなるすぐ前のことでした。取引先の破産でパパの仕事のお金が入らず困った二人は、グラフィックデザイナーであるモーディーが新しく見つけた勤め先の広告会社がある同じニュージャージー州のスリー・ブリッジという町に引っ越すことになります。知らない町のシェア・ハウスでの慣れない暮らしと、大好きだったパパを失ったことでオリーブは寂しさを募らせていました。そんなオリーブにモーディーは一緒に職場に来て欲しいと誘います。モーディーの上司のブライアンは近くにある盲導犬センターの訓練を手伝っていると言い、犬好きのオリーブに子犬を会わせてくれました。盲導犬の訓練について知ったオリーブはパピーウォーカーや訓練士などの仕事を知り、自分も携わってみたいと思います。何よりも、その日、出会ったルーニーという子犬に夢中になってしまったのです。思わぬことに、ルーニーを育てるはずだった人に不幸があり、オリーブに、その機会が巡ってきます。ルーミーが世界一優秀な盲導犬になれるよう、オリーブはパピーウォーカーとして努力しますが、これは難しいチャレンジです。何よりも、10カ月後には、盲導犬を必要とする人にルーミーを引き渡さないとならないのです。寂しい想いを抱えていた女の子が、子犬を育てることで慰められ、その世界を広げていきます。たっぷりの愛情をルーミーに注いでいくオリーブは、自分もまた深く愛されていたことを受け止めていきます。お別れの時はきます。その時、オリーブがどんな豊かな気持ちでルーミーを送り出すことができるのか。人と動物が、そして人と人が信頼関係を築いていく尊さを存分に味わえる一冊です。

『すばらしい仕事は人生の大きなよろこびであり、まずい仕事では決して満足感は得られない』。それは配管工だったパパがオリーブに遺してくれた言葉です。オリーブはこの言葉をルーミーを育てながら噛み締めていくことになります。早くにママを亡くしていたオリーブにとって、パパは誰よりも大切な人でした。オリーブはパパのそばにいた自分が、ガンになったパパにもっと何かできたのではないかと後悔を募らせています。それでもルーミーに愛情を注いでいくことで、オリーブは自分が深く愛されていたことに満たされていきます。自分の不甲斐なさに挫けそうになる気持ちを叱咤するオリーブの心の中には、ずっとパパのスピリットが息づいていました。配管工の仕事は人の目につくものではありません。高い評価を得られるものではないかも知れません。それでも、自分をいつわらず、人々によろこばれるように最善をつくせば、満足のいく人生を送れる、というパパの言葉をオリーブは信じています。それを自分もまた実践することが、オリーブにとって、パパの死を乗り越えていく力となります。忘れるのではなく、その思いと共に生きていくこと。オリーブがパパから受け継いだ配管の知識で、いい加減な業者の仕事ぶりを諌めるあたりも痛快ですが、まあ実に色々な業者がいるので、業者選びが肝心だということですね。真摯な仕事は、どんなものであれ心を打たれます。最近、仕事は楽なら楽なだけいい、などと思っている自分としては反省点が多いのです。もっと真摯に生きなくてはと思います。