出 版 社: 金の星社 著 者: エヴァ・アスムセン 翻 訳 者: 枇谷玲子 発 行 年: 2010年12月 |
< 太陽のくに 紹介と感想 >
デンマークに住む中学生、ラムラス。彼の容姿が父母や妹と違っているのは、赤ん坊の頃に養子として、遠い国からもらわれてきたからです。その皮膚が茶色なわけを、白人の両親から、お前は「太陽のくに」から来たからなんだよと言われて育ったラムラス。愛情深い家族のもとで健やかに育ったラムラスでしたが、やはり学校で外見をからかわれたりすることには過敏になっている年頃でした。幸運なことに高額の宝くじをあてたラムラスのお父さんは、この機会にラムラスの生まれた「太陽のくに」に家族旅行をしようと思いたちます。ラムラスも、自分と同じ容姿をした人たちの間に入れば、ジロジロ見られることもないだろうし、むしろ、自分の家族たちの方が珍しがられるんだ、なんて、ほくそえんでいました。祖国である「太陽のくに」に降り立ったラムラスが見たものは、ふりそそぐ太陽の光と絵葉書から切り取られたような美しい風景。それでも、ホテルに滞在して観光客としてこの国を見ている分には、その真実の姿には気づけなかったのです。まさか、あの時、あんな大地震がこの国を襲うことになるなんて。ホテルは崩壊し、非常階段に出たラムラスは洪水に流され、この見知らぬ国に一人で放りだされます。そして彼は、祖国の真の姿を目の当たりにすることになるのです・・・。
この後の展開が凄いのです。まずは大地震後のパニック状態を抜け出したものの、ホテルから遠く流されてしまったラムラスは、言葉の通じない世界で苦戦しはじめます。多くの発展途上国がそうであるように、美しい自然とは裏腹に、この国の人々は貧困に苦しめられていました。しかも、ラムラスの容姿は現地の子どもと変わらないため(いえ、現地の子どもは、みんなもっとガリガリで痩せこけているのですが)、誰も彼が観光客であるなんて信じません。親切にしてくれる人が恵んでくれることはあっても、水は濁り、食べものは虫がたかっているのがあたり前。そうこうするうちに、現地の村で世話になりながらラムラスは同じ年頃の子どもたちとも親しくなり、この国の言葉を覚えていきます。しかし、そこでラムラスが目にしたのは、貧しい環境で過酷な労働に就かされている子どもたちの姿でした。なんとか街に戻ってきたラムラスは、今度はストーリチルドレンたちと親しくなり、建築現場を寝床にして暮らすようになりますが、そこでもわずか十二歳の女の子が観光客に体を売って弟を養っている姿を目にします。家族とはぐれて数か月が経ち、ボロボロになったラムラスは、自分が観光客だったと訴えるものの、誰にも相手にしてもらえません。このまま彼は、ストリートチルドレンの一人として生きていくことになるのでしょうか。
不衛生な環境と貧困にあえぐ人々の生活に直面する、豊かな国で育った少年。適切な例えかどうかわかりませんが、ラムラスはまるでマーク・トウェインの『王子と乞食』の王子様のような体験をします。先進国の恵まれた環境で育ったことを自覚すらしていなかったラムラスは、自分のこれまでの生活を思い、大きなショックを受けます。自分と同じ年ごろの子どもたちが、こんな理不尽な世界で暮らしている。ただの家族旅行が人生観を揺るがす大きな体験に変ってしまいました。そして、デンマークでからかわれ、差別されていた自分もまた、この国を野蛮で貧しいだけのところと見下していたことに気づきます。物語は、一応の解決を見ますが、ラムレスには未解決なままの複雑な気持ちが残ります。多くの出会いと別れ。友人たちの失われた命と、なにもできなかったことの後悔。それでも、ラムレスは生きる勇気を持つことの大切を知るのです。過酷な運命の中で生き抜きながら、それでも喜びを知っていた友人たちを思う、ラムレスの心の成長が鮮やかな作品です。・・・とまとめつつも、まあ、色々な意味で、生きていくことの「希望」については考えさせられました。一人の少年の心のドラマはそれなりの完結を見せるわけですが、貧困にあえぐ子どもたちや、数千人のストリートチルドレンがいるのは「太陽のくに」だけではない。デンマークでは、この本が子どもたちのディベート用の題材になっているそうです。未解決だからこそ考える余地は沢山ある。ここからはじまることもまたあるのだと思いたいですね。