出 版 社: アンドリュース・クリエイティヴ 著 者: アン・M・マーティン 発 行 年: 2003年07月 |
< 宇宙のかたすみ 紹介と感想>
一九六〇年、六月。もうすぐ十二歳になる少女、ハッティの前に現れたのは、これまでその存在を知らされていなかった叔父のアダムでした。ママの末の弟であるアダム。ちょっと問題があって、普通の人と違うということをママから聞かされたハッティですが、知的障がいがあるというわけでもないという、その叔父さんがどんな人なのか想像がつきません。十二歳の頃から養護学校にずっと入っていたアダムは二十一歳の大人であるのに、子どものようにふるまい、自分の気持ちを抑えていられない人でした。明るくはしゃいでいるのに、笑っているときにも神経を張りつめている。厳格な祖父母がアダムに対して、距離を置いた態度をとることもハッティは気になります。宇宙のかたすみをめくる。アダムの言葉はハッティの虚をつき、アダムと親交を深めていくことでハッティは新しい世界を見せられます。一方では、家族としてアダムを理解することや愛し続けていくことの困難もハッティは知ることになります。自閉症。まだ、この障がいに対する理解が進んでいない時代です。普通ではないけれど、特別な人な人であるとわかってはもらえません。アダムに向けられる好奇の目と蔑み。理解不能なアダムの行動にハッティは傷つき、アダムのようになるのではないかと自らの資質も恐れてしまいます。やがて純粋なアダムは暴走し、混乱したまま自ら命を絶ちます。遺されたハッティの記憶の中でアダムはかけがいのない存在として輝き続け、物語は痛ましくも美しい余韻を残して終わります。内気で引っ込み思案だった少女の記憶の中で、かけがえのない時間として輝く、アダムとの思い出の夏。アダムにハッティがむけるまなざしが美しい文章としてここにつなぎとめられています。