出 版 社: 岩崎書店 著 者: 八束澄子 発 行 年: 2009年11月 |
< 月の青空 紹介と感想>
物語のトーンは明るいけれど、辛いお別れがいくつも重なっていく物語です。さよならだけが人生なのですが、人生はさよならだけではないのだと見出そうとする心には灯るものはあります。さよならをどう受け止めるか。柔道の受け身のように、その衝撃をどこかに受け流すことができれば良いものですが、ボクシングのパンチドランカーのように、蓄積された衝撃に立ち直れなくなることもあります。必要なのは、ちゃんと哀しむことです。心をごまかさず、悲しみをこらえないこと。失われたものは、そのまま戻ってくることはありませんが、多少は、心を癒されることもあります。人はじっと回復を待つしかないのだろうと思います。努めて明るくふるまう必要はないのでしょう。そんな真理を子どもに説くことは、やや口はばったいものです。大人もまた、悲しみを受け流すことを器用にできるわけではないので。となれば、子どもとともに大いに悲しむしかないのだなと思うのです。この物語は、最初に書いたように、とても明るいのです。胸が塞がるような出来事が小学五年生から六年生になる、主人公に降りかかります。自分の巡り合わせを大仰に悲憤慷慨するわけではなく、日々の生活の中でじっと受け止めていく姿に感じ入ります。それでも人生は続くのです。それはけっして悲しむだけのことではないのです。
小学五年生の女子、千花(ちか)の母親の春美は渋川動物公園で働いています。動物が飼えないアパートの母娘二人暮らしとはいえ、物心がついた頃から動物公園に出入りしていた千花は、動物たちと家族同様に過ごしてきました。三万坪の敷地に約八十種、六百頭羽の動物たちが暮らす動物公園は、柵はあるけれど檻はない一風変わった私設の動物ワンダーランドだったのです。中でも道産子の、月(つき)は、おでこに三日月の模様がある人気の馬で、千花も大好きでした。さて、五年生の三学期になって、千花は学校での友だちづきあいが苦手になります。友だちだったハナエが三学期になって学校に来ておらず、先生から九州の熊本に引越したと言われたのです。ハナエが父親の借金で夜逃げしたと噂されることに耐えかねて、千花は孤独をかこつようになっていきます。いなくなったハナエを想い心が塞がった千花の慰めは、自分が名付け親となったロバの茜でしたが、茜もまたリンゴ農園から譲り受けたいというオファーがあり、離ればなれになってしまいます。それでも学校で飼育委員の亜美に頼られて、ウサギの面倒を見るようになり、次第に亜美とも親しくなっていきます。ハナエを失い、茜と別れ、自分の淋しい気持ちを見つめ強くなろうとする千花。しかし、今度は大好きだった道産子の月が怪我から亡くなってしまい、見送らざるをえなくなります。満月の夜、穴の中に月を横たえて埋葬した千花。悲しみは深く耐え難いものですが、動物公園には新しい命もまた芽生えます。月をしのび想いをめぐらせる千花の気持ちにそっと寄り添える物語です。