優等生サバイバル

How To survive as a Top Student.

出 版 社: 評論社

著     者: ファン・ヨンミ

翻 訳 者: キム・イネ

発 行 年: 2023年07月

優等生サバイバル 紹介と感想>

あまりイケているというわけではない男子が、可愛いことで名を馳せている女子から誘われるとなると、これはなにかウラがあると思っていい展開です。『村木ツトム その愛と友情』という秀逸な作品が好例ですが、そこで調子に乗ってしまうと、大抵、ひどい目にあいます。本書の主人公であるジュノは、これまでに女の子とつきあったことがないというものの、優秀な進学校にトップの成績で入学した秀才であり、モテる要素がないわけではない。でも、調子には乗りません。同じ一年生で、芸能事務所にもスカウトされたことがあるという可愛い女子、ハリムに声をかけられてデートするようになっても、警戒心と冷静な判断力を失わないのです。友人のゴヌは、ジュノは意外に女子人気があるのだと言いますが、彼としては半信半疑です。成績の良さだって、たまたまトップ入学だっただけで、後は順位が落ちるだけだろうと覚悟しています。そんなふうに、調子に乗らず、いつも心配している慎重な主人公の謙虚さには好感が持てます。まあ、思春期は浮かれモードもあって良しです。大いに調子に乗って、スベりまくるぐらいが青春です。しかし、ここで慎重にふるまえるところがジュノらしさなのでしょう。良い友人たちに囲まれて学校生活を送るジュノは、真に好きになるべき相手を見つけ出します。その得恋は、可愛い子に誘われて嬉んでいるような浮かれモードではない実直さがあります。華も実もある手応えが魅力的な、真面目で意識の高い高校生たちの物語。ハードな競争社会である現代韓国を生き抜く、気丈夫な子どもたちが、ちゃんと将来を見据えて、悩みながらも進むべき道を見つけていく。芯のある清新なYA作品です。

レベルの高い進学校であるトッソン高校にトップの成績で入学したパン・ジュノは優等生。とはいえ、この後も良い成績が維持できる自信はなく、優等生でいることの難しさを入学早々にして感じていました。家の経済的な問題があって、家庭教師や塾に頼ることができない。父親は医者とはいえ、ホームレス支援に力を入れて、ボランティアで駆け回っているような人でしたが、ステージ3の大腸がんが見つかって、その治療に専念するため、仕事からも離れざるをえなくなっていました。手術後に地方で療養生活を送ることになり、母親もそれに付き添うことになったため、ジュノは叔父さんと二人で暮らすことになります。上位三十人の成績優秀者だけが使える学校の自習室である正読室で勉強するものの、ここを追放される日も遠くないと思っているジュノ。そんな折、可愛い女子、ハリムに声をかけられデートを重ねますが、ハリムが学年トップコレクターという異名で呼ばれていることを、ジュノも後に知ることになります。もとより自分の話など聞いていない勝手なハリムに好意を抱けないジュノ。恋愛などよりも、目下の学校生活に居場所を作ろうとするジュノは実直に考えます。友人のゴヌと二人、時事問題討論サークルに入部し、志の高いボナ先輩や、同学年のユニークな少女ユビンと交流するうちに、ジュノの意識にもまた変化が生まれます。成績が落ちていくジュノに代わってトップに立ったミン・ピョンソは、ジュノの幼なじみで、何故かライバル心をジュノに抱いており、ジュノと別れたハリムと付き合ったり、同じサークルのユビンにも接近して、ジュノを挑発します。ピョンソの持つ利己的な価値観への反発や、学校の先輩や友だち、それぞれが抱いている将来への希望や葛藤に心を寄せながら、自分もどうやって先に進んでいくかをジュノは模索します。根っからの優等生マインドを持った主人公が体験する青春のサバイバル。爽やかなYA作品です。

ジュノが一緒に暮らす叔父さんは時折、真理めいた深淵なアドバイスを与えてくれます。こうした自由人の叔父さんの存在は、児童文学の中では既視感のあるところですが、本書のような韓国の物語でも、世俗的な価値観に焦がされる主人公をクールダウンさせるための理解者として登場します。ジュノの両親もまたリベラルであり、成績にとらわれない生き方を推奨してくれます。とはいえ、韓国のデフォルトと言えば、過酷な競争社会であり、ジュノもまた将来のビジョンが見えないままに、成績を維持することにこだわっています。若くしてアウトローになることは不安なものです。親に反対されながらも環境問題への関心を深めていくボナ先輩。実業系の高校の観光学科に転入して、大学には行かずに働き始めたいというユビン。飾ることのないありのままの自分に自信を持つ自己肯定感の強いユビンに、ジュノは惹かれていきます。はっきりとした目標もないまま流されながら、それでもハードな勉強を続け、厳しい競争社会を生き抜こうとする韓国の子どもたち。ボランティアをすることだって大学受験の内申点のためだけなのです。競争で勝ち抜くことが第一。もとよりドロップアウトできない優等生だけれど、そんな価値観にささやかに抗って、理想の生き方を求める姿を、韓国YAが後押ししていることを感じられた読書でした。韓国の物語ではお馴染みですが、食べ物の描写が非常に多くて、楽しめます。高校生たちのSNSでの発信も活発ですが、まあ、そこが諍いのタネになるのは万国共通ですね。その国らしさと世界標準が垣間見えるのが面白いところです。