出 版 社: KADOKAWA 著 者: ペニー・ジョエルソン 翻 訳 者: 河井直子 発 行 年: 2019年02月 |
< 秘密をもてないわたし 紹介と感想>
重度の脳性マヒのために自分の意思では指一本動かすことができないジェマ。まばたきさえ自由にできない彼女は、自分の思っていることを一切、人に伝えることができません。それでも家族の愛情に守られて育った彼女は、14歳のティーンとしての豊かな感性と知性を持っていました。そんな彼女が近所で起きた殺人事件についての真相を知ってしまい、誰にもそれを伝えられないまま、今度は彼女のヘルパーの失踪事件が起こります。サスペンスな展開の一方で、不自由な身体に閉じ込められて、自分の意思を誰にも伝えられない苦衷や、他人からの憐れみに傷ついている心境も描かれていきます。そして、唯一、彼女がコントロールできる鼻呼吸でパソコンの文字盤をを選択し、意思を伝えられるようになる技術が導入されます。これにより、物語は急展開しますが、意思を伝えられるようになったら、すべて分かってもらえると思っていたことが、そうでもないという失意も経験します。エンタメと児童文学のどちらにも振り切っておらず、同じ脳性マヒの少女がコミュニケーション手段を獲得する『わたしの心のなか』のような秀作と比べると物足りなさはあります。また、ジェマは里親の両親の元で愛情深く育てられているのですが、この人たちのポリシーや挙動が今ひとつ謎です。他の大人の登場人物たちもどこか変だし、色々なノイズが気になる作品でした。とはいえ、読み終えた後にやや未消化感があるものの、初めて自分の言葉を伝えられた瞬間にジェマが歓喜する場面や、人との心の通じあいを実感する場面など、良いところも沢山ある作品でした。