出 版 社: 小学館 著 者: ジェン・キャロニタ 発 行 年: 2009年06月 |
< 転校生は、ハリウッドスター 紹介と感想 >
人気の長寿ドラマ「ファミリー・アフェア」で子役として四歳でデビューしたケイトリン・バークも十六歳。今ではティーンアイドルとして絶大な人気を誇っています。新シリーズが続くドラマの撮影だけではなく、映画や雑誌の取材と忙しい毎日。仕事のために子どもの頃から家庭教師に教わるだけのケイトリンは、学校に通ったことがありません。今回、四ヶ月間のドラマ撮影のオフシーズンに、夢だった学校生活を体験してみようとケイトリンは思い立ちます。親友リズの手引きで、「ファミリー・アフェア」ファンの校長先生の協力も得て、ハイスクールに「転校生」として潜り込んだケイトリンは、カラーコンタクトで瞳の色を変え、ウィッグをかぶり、服装も目立たないようにして別人になりすまします。果たして、ごく普通の女子高生になった別人ケイトリンは、学校という場所でどのように迎え入れられるのでしょうか。
お話は単純で、昔のコミック的というか(小学生の頃、学年誌で読んだ漫画にこういうようなスト-リーがあった気もするんですが)、映画的です。やや浮世離れしているケイトリンが、現在のハイスクールで、この『ローマの休日』的なものをどう過ごすのか。普段はパパラッチに追われたり、ファンの目を気にしなければならないケイトリンが、まったく違う環境で、目立たないごく普通の女の子として体験する日々は新鮮で、多くの発見があります。正体がバレないようにするヒヤヒヤ感や、ずっとチヤホヤされて育った彼女が初めて冷遇されたり、セレブではない地味な別人ケイトリンを好きになる男の子の登場にドキドキしたりと、盛り沢山の休日は続きます。さて、ケイトリンには、ドラマでずっと一緒に二卵性の双子を演じてきたスカイという共演者がいます。スカイはケイトリンをライバル視していて、色々な意地悪を仕掛けてくるのだけれど、このつかの間の学校生活にも、スカイの横やりでピンチが訪れます。それをどう乗り切ってハッピーエンドを迎えるのか、このあたりも非常に愉しめるところです。
ハイスクールで、別人のフリをしたケイトリンと親しくなったり、好きになってくれる人たちができるにつれて、皆をダマしていることの罪悪感が彼女には募っていきます。これは、女優ケイトリンが演じているキャラクターなのだという嘘。真実を知った時には、ビックリされるだけではなく、きっと相手を傷つけてしまう。そう心配するあたり、実に真っすぐなケイトリンの気性が見てとれます。ところで、人間には多面性があって、ごく普通の人でも学校や職場で見せている顔が、その人の全てではないのかも知れないし、場合によっては別のキャラクターを演じていることもあるかも知れません。誰もが「心のセレブ」なんだけれど、その正体は見抜けない。社会生活では、仮面を被らずに剥き出しのままの心でいることは傷つきやすいもので、さりげない自己防衛を行うことは当たり前ではないのか。そういった意味では、案外、普通の子もまた女優や男優であったり、複雑な存在なのかも知れません。天然の、素顔の自分だけでは、世の中とうまくやっていくことができない。ケイトリンは特別な子ゆえに、こうした仮面を被ることが戯画化されてしまい、普通の子たち以上にピュアなものだから、仮面の重さを気にしてしまいます。スターだとはいえ、したたかではないんですね。このあたりケイトリンが愛される理由かなとも思います。本国では人気作となっているらしく、シリーズ化されベストセラーになっているとのことです。ガールズもの人気は続いているようですね。国内作品だとおそらく小学生高学年向けになるストーリーやメンタリティを、ディテールだけ中高生向けにした感じでしょうか。ちょっとコテコテではあるかな。学校のパーティーで自分自身の扮装をするケイトリンなど、これは映像化すると面白いだろうなと思いました。