高志と孝一

てんとう虫が見た青春

出 版 社: ほるぷ出版

著     者: 篠田勝夫

発 行 年: 1990年03月

高志と孝一  紹介と感想>

高志と孝一は従兄弟同士で親友。ともに同じ中学に進学したばかり。入学早々、ワルたちの呼び出しを受け、血なまぐさい洗礼を受けたりと、なかなかワイルドなスクールライフがはじまります。高志は体操部、考一は剣道部に入部し、それぞれの道で夢を実現しようと努力しますが、小学生時代に、万引きに手を染めたことがある孝一は、教師からの偏見の目を向けられることもあります。ワルとの縁を切り、一度貼られたレッテルも強い心で吹き飛ばしていこうとする考一ですが、なかなか、心中、穏やかでもいられない。そんなさなか、孝一は病魔に襲われます。ちょっと具合が悪い、と思っていたところが、瞬く間に脳腫瘍ということが判明。入院療養を続けるものの悪化するばかり。孝一が病気と闘っていることを見守りながら、高志は、いろいろな人たちと出会い、影響を受け、世界に対する目を見開いていきます。剣道に打ち込み、考一がやり遂げたように、いつか鉄棒で逆車輪を決めることを目標にする高志。一方、数度の手術の甲斐なく、医師も手の尽くしようがないまま、悪化した病状で退院させられてしまった孝一。高志は、やせ細った盲目の孝一の手を握り締め、自分がここに一緒にいることを伝えます。この真摯で清廉な物語は、やはり、悲しい結末を迎えることになりますが、大切な人間の死を乗りこえて、少年が成長していく、震えるような強さを持った作品です。死は、確実にある。それは中学生も真正面から向き合わなければいけないこと。難病モノとパッケージされてしまうとしても、それでもこのテーマは、安易ではない感慨を抱かされるものですね。少年たちが、ちょっと乱暴にふるまったりしながらも、一本気でまっすぐな心を持っているだけに、読む側としても辛いものがありました。 

本作品は地方都市の中学生モノとはいえ、1990年当時の新作というには、かなり時代感覚がズレている気がします。ここで描かれる少年たちの感受性は1960~70年代のジュニア小説を思わせます。1990年という時代を考えると相当な前衛作品と呼べるでしょう(いや、ポストモダンか)。詩人でもある数学の先生が、黒板に立原道造の詩を書いて解説してくれたり、それをまた、生徒たちが正面から受け止めたり、黒沢明の『姿三四郎』の上映会を見に行って、熱く語り合ったり、登山をして清新な山の頂に感動したりする。先輩が「藤村操」の遺書を手紙に書き送り、人生を真剣に生きるとは何かを後輩に問うたりと、まあ、かなりクラシックな青春像が展開しています。変、だからこそ良い、というところも多分にあります。高潔な先輩を尊敬したり、毅然とした生き方を貫いている女性に心を打たれたり、少年たちのスポーツや武道に対する情熱も、なみなみならぬものがあります。自分自身の甘えや根性のなさに対する克己心が描かれているところも良いですね。かといって清廉なだけではなく、ちょっとした心の隙間もあったりして、エロと未分化の淡い恋にも翻弄されます。失意に沈んだ高志が、お風呂に飛び込むとお姉さんが入浴中で、一緒に湯船につかる場面があるのですが、この場面が不思議といいんですね。お姉さんの胸をチラ見しながら、思いをかけている同級生の女の子のことを想像したりするのもご愛嬌です。日常の中でも、ふいにシャツから透けて見えるブラジャーの紐にときめいたりするのも、百歩譲って、抒情的、と呼べるかもしれない味わい深いものになっています。無論、そんなささやかなエロ要素に着目しなくても、充分に楽しめる読み応えのある作品です。ほるぷ創作文庫の一冊です。著者陣の渋さといい、このラインナップにはなかなか刺激的な本が埋まっていそうな予感もしておりますので、少し、読み進めて見ることにします。