11をさがして

Eleven.

出 版 社: 文研出版 

著     者: パトリシア・ライリー・ギフ

翻 訳 者: 岡本さゆり

発 行 年: 2010年09月


11をさがして 紹介と感想>
屋根裏部屋でサムが見つけたものは8年前の新聞紙。その記事には、3歳の時の自分の写真が載っていました。「missing」。サムがかろうじて読めたのは「行方不明」という言葉と自分の名前だけ。でもサム・マッケンジーではなく、サム・ベル、という違う名前になっていました。記事をちゃんと読むことができないのは、サムには文字を正しく認識できない学習障がい(ディスレクシア)があったからです。おじいさんが、自分にくれる予定のクリスマスプレゼントの隠し場所を探していたはずなのに、どうやら大きな秘密をさぐりあててしまったサム。蘇ってくる幼い頃の記憶はおぼろげです。何か大きな水難事故に巻き込まれた気がする。もしかすると犯罪めいたものが関係しているのかも知れない。両親はおらず、おじいさんと二人暮らしのサムは、その疑問を誰にも打ち明けることができないまま密かに調査をはじめます。ミステリアスな展開でありながら、『リリーモラハンの嘘』などで二度のニューベリー賞オナーを受賞したパトリシア・ライリー・ギフならではの児童文学感覚があふれる、非常にフレッシュな作品です。

誰でも一度くらいは、自分がここの家の本当の子どもではないんじゃないか、なんて疑念を抱くことがあるかと思います。まあ、両親とは顔がそっくりだし、疑いようもないもんね、あたりが普通のオチです。とはいえ、自分が赤ん坊の時の写真がないとか、その理由を聞くと、言葉を濁されるなんてことがあると、疑いは強くなります。サムの場合は漠然とした過去の記憶の中に、どうもひっかかることがありました。事故、そして、はっきりしない、あの「いやな家」の記憶。そして、サムが11という数字を恐れてしまうのは何故なのか。あの新聞記事が読めれば、何かわかるかも知れない。サムは文字を読んでくれる協力者を探します。彼が選んだのは、転校生のキャロライン。変わり者で、クラスで友だちを作ろうとしない彼女。キャロラインの協力を得て、サムは謎の真相に迫っていきます。二人で調査をしていくことで、記憶の断片がつながり、自分の幼少時の秘密が明らかになる。なかなかドキドキとする物語です。

何か苦手なものがある人は、おおよそ幼少時のトラウマに結び付いている、というのはサスペンスの常套です。ヒッチコックの映画みたいですよね(『白い恐怖』『マーニー』『めまい』などなど)。11という数字をサムが恐れるのも、過去に隠された秘密があるようです。ところで、ミステリアスな謎解きも興味深いのですが、この作品の最大の魅力は、サムとキャロラインの関係性です。まだ11歳で、恋愛を自覚することもない二人なのですが、こう、ちょっと切なくなるような友情以上の結びつきがあるんです。親の都合で転校を繰り返してきたキャロラインは、友だちを作ることを諦めて本の世界に楽しみを見いだしていました。そんな彼女が、サムに協力を求められ、二人で謎を追っていくうちに芽生えていく気持ちがある。眼鏡にソバカス、歯の矯正をしていて、ポケットにではなく、なぜか袖口に入れているティッシュがいつもはみ出している変な子。人を寄せつけないようにふるまっているのは、すぐ転校せざるをえない寂しさを抱えているから・・・。キャロラインが再び転校してしまうカウントダウンが迫る中、サムは自分にまつわる謎をひもといていきます。サムの周囲の大人たちのキャラクターも良くって、謎めく物語と児童文学的空間のバランスが絶妙です。そして、サムとキャロラインがお互いをいとおしく思っている気持ちが、やっぱり、ぐっときます。なんか、すごくいいんだよな。

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