出 版 社: サンマーク出版 著 者: ゲイル・カーソン・レヴィン 翻 訳 者: 三辺律子 発 行 年: 2000年10月 |
< さよなら、「いい子」の魔法 紹介と感想 >
面白い。おとぎ話をファンタジーにした寓話的な物語と思いきや、思いっきり心をゆるがしてくれる極上の小説でした。最期までハラハラさせてくれました。そして、主人公エラの格好いいことよ。「いつか王子様が」やってくるのを、待っているヒロインではなく、毅然として、己を卑下せず、そして、愛する者のためには、自分を犠牲にすることも厭わない強さを持った、実に、素敵な女性でした。不幸な星の下、というだけでは足りない、こんなのあり?と思わせるような、あんまりな制約条件の下、その有限性の中で、どれだけの機知を働かせて、エラが闘ったことか。惚れ惚れするヒロインの活躍に、胸のすくような一冊です。ちなみに1998年のニュベーリー賞のオナー。まだまだ読み残している作品の多さに、いや、今は、もっと面白い物語に出会える可能性にワクワクしてしまうのです。
「十五歳の誕生日に糸車の針に刺されて死ぬであろう」というのは、有名なあの物語の台詞ですが、この物語の世界でも、新しい子どもが生れたときには、魔法を使える妖精たちがお祝いに現れて、祝福を贈る、という儀礼がありました。エラが生れたとき、招かれなかった妖精が意地悪な呪いをかける、というようなことはなかったのですが、少々、とんまな妖精ルシンダは、お祝いのつもりで、ひとつの魔法をエラに授けました。『わたしの贈り物は『従順』です。これからは、エラはどんな命令にも必ず従うでしょう。さあ、泣きやみなさい』、これでお母様の育児は大助かりと、ルシンダは自分の授けた魔法にご満悦なわけですが、これからのエラの人生に、暗澹たる思いを抱いたのは、お母様と召し使いのマンディ。これでは、エラは、一生、誰かの言いなりにされてしまう。エラはいったん命令されると、それに従わない限り、心臓は早鐘を打ち、頭は割れるように痛み、自由が利かなくなってしまうのです。だから、命令に従う、自分の意思に反しても。幸い、裕福なお屋敷のお嬢様として生れたルシンダに「命令」できる人間は数少なく、この呪いの効力が発揮されることは少なかったのですが、エラの身を案じたお母様からは、この秘密を決して人にしゃべってはいけない、と「命令」を受けました。そんなお母様が亡くなってしまう、辛い事件がエラを襲います。そんな中で唯一の救いは、この王国の王子、シャーと親しく友人になれたこと。しかし、このエラのお屋敷での守られた日々も終わりを告げます。エラの秘密を知らない、強欲なお父様からは、行儀作法学校へ通うことを命じられ、泣く泣く、寄宿舎へ入ることになったエラ。寄宿舎に一人いかなければならないエラに「魔法の本」を渡したのは、実は台所の妖精であり、代々、エラの母方の一族を見守ってきた召使いのマンディ。エラはこの「魔法の本」で、色々な物語を読んだり、他人の日記や手紙を読むことができたりするのです。マンディの魔法力では、エラの呪いを解くことはできず、彼女は、寄宿舎で、自分の秘密を知った意地悪な女の子にいじめられながらも、なんとかルシンダに会って、この呪いを解いてもらおうと画策します。そして、胸に微かに灯る、王子との思い出。ルシンダが巨人族の結婚式に現れることを知って寄宿舎を抜け出したエラ。果たして、どんな冒険が彼女を待ち受けているのでしょう。果たしてエラは「いい子」の魔法から逃れることができるのか。
と、まあ、ここから、二転三転、グルグルと物語は、転がって、エラは、この幻獣も沢山生息する世界で、言語に対する特殊な才能を発揮し、ピンチを切り抜けていきます。とはいえ、運命は非情にも、彼女を「灰かぶり姫」のような目にあわせることになるのです。さてさて、呪いは解けるのか、そして、王子様との関係はいかに。ピンチをチャンスに変えて、どう切り抜ける、スリル満点。切なさ一杯。そして、自分で自分を救い出すヒロインの輝けるハッピーエンド。「いつか王子様が」なんて、ことを微塵にも思っていない、自分で道を切り開く、新たなヒロインを前にして、やっぱり、カッコイイ、と、羨望のまなざしを送ってしまいました。文句なし、面白い作品です。