カモ少年と謎のペンフレンド

Kamo l’agence Babel.

出 版 社: 白水社

著     者: ダニエルペナック

翻 訳 者: 中井珠子

発 行 年: 2002年05月


カモ少年と謎のペンフレンド  紹介と感想 >
ペンパル、という言葉も、随分、耳にしないような気がします。主に、海外在住の文通相手指すようですが、なんとなく懐かしい響きですね。その昔、少年少女雑誌などには「お便りください」というような文通相手やペンフレンド募集のコーナーがあったものですが、最近はどうなっているのでしょうね。最近のYAや児童文学でも、子どもたちが、パソコンや携帯電話を持っているのがあたり前になっています。通信のスピードは限りなく速くなった、とはいえ、出そうか出すまいか、一晩かけてメールを書いてみては、やっぱり「削除」してみたり、というような、思春期の心の動揺は、インフラは変わっても、案外、変わらない気がしています。切手を貼って出すより、送信ボタンは楽に押してしまえますが、郵便受けを覗いて返事を待つのも、画面を睨んで返事を待つのも、同じようなメンタリティかも知れません。出さなかった手紙、出さなかったメールにこそ、本当の気持ちが詰まっていたりして、そうした思いの丈がでしゃばりすぎて、気持ちが溢れて言葉が連なり、長い長い手紙を書くはめになり、恥ずかしくなって、破り捨てたりして、まあ、そんな気持ちも思い出されます。本作、『カモ少年と謎のペンフレンド』も、タイトル通り、「謎」のペンフレンドが登場する、実に楽しい文通小説です。

フランス人のカモ少年は英語が大の苦手。テストではひどい点数ばかり。語学に通じていて、数ヶ国語を自由に読み書きできる母さんからは、叱られてばかり。でも、そんな母さんも、ちょっと変わった性格で、同じ仕事が二週間と続かない。そこで、カモと、お母さんはひとつの賭けをします。もし、お母さんが三ヶ月、同じ仕事を続けることができたら、カモも英語をマスターしてみなさい、と。どうせ、お母さんの仕事は長続きしない、と思っていたカモ。ところが、今度のお母さんの仕事は、どうも、いつもと違うらしい。あっという間に三ヶ月がたって、今度は、カモが約束を果たす番になってしまったのです。お母さんが、英語をマスターするために用意してきたのは、文通相手のリスト。外国語の一番の上達法は、外国に住む文通相手を持つことなの、さあ、この中から一人を選びなさい。しかたなく適当に決めた相手の女の子に、悪口雑言のフランス語の手紙を書いたカモ少年。相手から返事がくるものか、と思っていたところが、届いたのは、のりづけの代わりに褐色の蝋で封印してある灰色っぽい厚い紙の封筒。その内容は、無論、カモを罵倒するものだったけれど、彼女が、亡くなったお父さんを、気まぐれな言葉で苦しめてしまったことを反省するものでもあったのです。自分もお父さんがいないカモは、この手紙に「参って」しまって、すっかり舞い上がって、英語の猛勉強を始めることになってしまったのです。ところが、どうも、この手紙の相手の様子がおかしい。「地下鉄」や「電話」という言葉の意味を知らない、この子は、いったい、どんな暮らしをしているのだろう。

いつの間にか、学校中に、憑かれたように外国語を学習し続ける子が目につくようになっていきます。カモも悲嘆に暮れる文通相手に、すっかり心を奪わてしまいました。どうも、みんな「ワケあり」の文通相手と交信し続けているらしい。そして、不思議な「文通斡旋協会」の存在。果たして、謎の文通相手は、何者なのか。・・・とまあ、ロマンたっぷり、遊び心たっぷりの作品です。ミステリアスで、それでいて、最後には、なるほど、と思わせる、痛快な作品であります。メール万能の世の中になって、いまさらながら、お気に入りの便箋と封筒を選んで、思いを込めて、一文字ずつ文字をしたためることの想い、というものを感じてしまいますね。

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