ミシェルのゆううつな一日

Michelles Fehler.

出 版 社: 岩波書店

著     者: マルティナ・ヴィルトナー

翻 訳 者: 若松宣子

発 行 年: 2010年01月


ミシェルのゆううつな一日   紹介と感想 >
この作品、かなり奇想天外です。まずは、内容紹介を書誌データから借りてきます。『ミシェルは14歳。背が低いのと、すぐに顔が赤くなるのを気にしている。自分の名前も好きじゃない。クラスメートのリディアは天敵だ。両親は三か月前から別居。その日は朝から失敗ばかり…ツイてないにもほどがある。』という内容紹介から、わりとありがちなYAだと思ったのです。女の子のたわいもない日常を写しただけの作品には『ふたつめのほんと』とか『ティナの明日』など良作も多いのです。この作品にもそんな期待があったのですが、完全に予想を覆されました。ミシェルがこうした女の子であることは確かです。ちょっと個性的な両親がまさに離婚しようとしていて、その間で戸惑ったり、意地悪な同級生に翻弄されたり、色々な小さな事件に巻き込まれたりする。得意なこともあるけれど、苦手なことも多くて、ままならないことばかり。ついていない日は、本当についていない。今日はまさにそんな一日。ミシェルが抱く気持ちのツブツブが、小さくはじけていくスパークが楽しいのは通常のYAパターン。ところで、この物語の変わった点は、彼女が「ずっと見張られている」ことなのです。彼女が、というよりも「人間はずっと見張られている」のです。そのことに人間たちは気づいていません。わりとスタンダードなYAに、もうひとつの「得体の知れない世界観」が並走する、非常にユニークな作品です。

FBA(失敗統計局)のシュミットは、ミシェルの「担当者」になったばかりです。彼はミシェルの行動をウオッチしていなければなりません。ドイツに住む14歳のこの女の子の行動には、やけに失敗が多く、これまでの担当も苦労してきました。シュミットはミシェルのことが好きになれず、見ているだけで、つい感情的になってしまいます。そう「守護天使」は客観的に対象を見守らなくてはならないのにです。しかも、ミシェルの存在証明がカード侵食のために消えそうになっており、その再発行の手続きをしなければならない。ここでシュミットは、大きな失敗をします。うっかりミシェル本人に存在証明を見られてしまうのです。この事実が発覚したら左遷は確実。そこでシュミットは、自分の失敗を揉み消すため、ミシェルを殺害することにします。しかし、担当者ができるのは、人間の気分を少しだけコントロールすることぐらい。それでもシュミットの与える攻撃が、ミシェルの出来事に影響を与えていきます。果たして、ミシェルは、この仕組まれた「ゆううつな一日」を乗り切ることができるのでしょうか。

FBAという天上の機関があるなんて、人間のあずかり知らぬところです。ミシェルも何も知らないまま、ただついていない運命に翻弄されていると思っています。リアリズム展開に「裏側」が存在する、という非常に面白い試みの作品です。そういえば時代小説の名作、『富士に立つ影』の第二部の主人公は、すごく呑気なんだけれど、どうにもついていない男性で、いつも行く先々で悪いことが起こるのです。運が悪いんだと思っていたら、実は、人生のいたるところで彼に「妨害工作をする人」にずっとつきまとわれ続けていたというオチにびっくりしたことがあります。色々と上手くいかないと「誰かが自分の妨害をしているんじゃないか」と思うこともなきにしもあらずですが、大抵は被害妄想なんだと思います。空の上の方で、誰かが上手いくようにとりはからってくれることもなければ、失敗するようにしかけていることもない。冷静になって考えてみれば、そのはずなのです。でも、試験に受からない、公募に通らない、失敗ばかり、なんてことが続くと、つい誰かの陰謀ではないか、と疑ってしまうものです。小中学生の思い込みの世界には、そんなことがけっこうあるんじゃないかなと思えるのですよ。そうしたことが現実になった世界の奇想の物語です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。