あたしがおうちに帰る旅

A girl called dog.

出 版 社: 小学館

著     者: ニコラ・デイビス

翻 訳 者: 代田亜香子

発 行 年:  2013年6月


<   あたしがおうちに帰る旅    紹介と感想>
「イヌ」と呼ばれ、ろくな食べ物も与えられないまま、ペットショップで動物の世話をさせられているやせこけた女の子がいました。乱暴な店主におびえながら働き、日中の営業時間にはお客に見つからないようにじっと物陰に隠れている。もし人に見つかったら、暗いハコに入れられてさらわれてしまうぞと、店主に脅されていたのです。動物のような酷い扱いを受けているイヌは、いったいどこからやってきて、ここで暮らすようになったのか。実はイヌには過去の記憶がなく、自分でもそれがわからないのです。酷い目にあわされても、イヌは口をきくことができないので、誰かに助けを求めることもできません。彼女の唯一の慰めは、売れないペットのハナグマのエズミがずっと一緒にいてくれることでした。そんなある日、一羽のオウムが、イヌの暮らすペットショップに送られてきます。自らカルロスと名乗り、器用に人間の言葉を操るオウムは、もしかしたら本当に言葉を理解しているのではないかと思わせるほど機知に富んでいました。そんな賢明なオウムに、ここから「ニゲロ!」と言われたのならば、素直に従っておくべきでしょう。こうして、ハナグマのエズミ、オウムのカルロスとともにペットショップを抜け出したイヌの冒険が始まります。それはイヌが「おうち」に帰るための長い旅の始まりでした。

驚くべきはカルロスの顔の広さと、その行動力です。口のきけないイヌは他の人に自分の事情を説明することができませんが、オウムが店主の口癖を真似すれば、イヌが受けてきた酷い扱いを人に伝えることができます。カルロスの昔なじみの人々に助けられ、なんとか一息つくことができたものの、ペットショップから逃げ出した女の子の一件はニュースになり、警察に追われていました。そこでイヌは、カルロスの生まれ故郷である南米アマゾンを目指すことになります。そこにはイヌと同じ人種の人たちも暮らしているというのです。ペットショップからの逃避行。警察から逃れ、船に密航して外国に渡るなど、ハラハラする展開が続く、実に面白い物語です。さて、長い旅の果てにイヌたちがたどりつく場所には、一体、何が待っているのでしょうか。

口のきけない少女と、ハナグマと、よくしゃべるオウム。その不思議なコンビネーションが軽快で楽しい物語です。とはいえ、一人と一匹と一羽の冒険の旅には、どこか寂しさや切なさがつきまといます。ペットショップを逃げ出しても、自分が帰るべき場所がわからないイヌ。自分がどこの誰かもわからないまま、虐待されながら育ち 、よりどころのない空虚な心のまま生きている少女。この作品は、おとぎ話めいているものの、ファンタジーでも「安寿と厨子王」のようなお話でもなく、現代のリアルに軸足を置いています。ペットショップの店主は児童を監禁して働かせる現代の山椒大夫ですが、つまりは、犯罪加害者です。自ずと「犯罪被害者の心はどうすれば癒されるのだろうか」とリアリズムの視点もわきあがってきます。現代という要素が、おとぎ話的なシチュエーションに入り込むとなんだか複雑なことになってきますが、これこそが奇想天外なのだと納得して、物語を楽しみ、登場人物や登場動物たちを愛しむこともできる作品です。どう読んだら良いのか戸惑うようなお話しなのですが、物語の終わりには、ひとつの救いが待っていて、安堵できることは請け負います。

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