出 版 社: さ・え・ら書房 著 者: 赤羽じゅんこ 松本聰美 おおぎやなぎちか 森川成美 発 行 年: 2017年06月 |
< なみきビブリオバトル・ストーリー 紹介と感想 >
小学五年生の四人の少年少女が、公共図書館主催のビブリオバトルで競い合うお話です。興味深いのは四人の主観による語りの各パートを、それぞれ別の作家が書かれていることです。二人の作家によるこうした連携はたまに見かけますが、四人となると、あまり例を見ないものかと思います。ビブリオバトル自体は、近年、随分とメジャーになってきているもので、ご存知の方も多いかと思いますが、参加者がそれぞれ一冊の本を選び、登壇して、口頭でその本の魅力を語り、一番になる本を決めるという競技です。バトルと言いながら、競い合うことよりも、互いの好きな本のことを共有し合うコミュニケーションの側面が強いものかと思います。どんな本を選び、どんなふうに紹介するか。おのずと個性が問われるところで、それを四人の作家がそれぞれの子どもの視点で書くとなれば、より期待は高まります。サッカーでシュートを決めるようにカッコよく本を紹介したい、と考える子もいれば、友だちに自分の思いを伝えたいと願っている子もいます。さて、小学生たちは一体、どんな本を選んだのか。実際にある著名な本を、子どもたちがどう紹介していくのかという興味深さと、緊張の面持ちで壇上に登る彼らの心の震えや思惑の妙に、自分もまたビブリオバトルの会場にいるような臨場感を味わえる一冊です。
トップバッターの佐藤君が『ヒックとドラゴン』で冒険ファンタジーの魅力を語れば、藤谷さんは『子犬工場』というノンフィクションを紹介し、ペット産業に巣食う闇を訴えます。本田さんは『バッテリー』の主人公、原田巧への思い入れと物語から見つけ出したことを語り、勅使河原君は脳の認識の不思議について考えさせられる『ココロの盲点』を紹介しました。みんなの前で本を紹介して、質疑応答することで、自分の気持ちを表現することができた四人は、ビブリオバトルに勝って、チャンプ本に選ばれることよりも、ここに参加して、やり遂げたことに充足感を得ます。単に順番に本が紹介されるだけでなく、それぞれの子たちが抱えている心の事情が、本の読み方にも影響していることが伝わってくるのが面白いところです。勅使河原君は友だちだった佐藤君とケンカをしたまま仲直りができていません。ケンカの原因はゲーム中に佐藤君と「色」について言い争いになったことですが、実は勅使河原君は自分に色覚異常があることに気づいていなかったのです。同じ物を見てもどのように認識するかは違う、ということを勅使河原君は、本を読んで知り、それを伝えたいと思います。これは、この物語全体を象徴するエピソードのような気がします。子どもたち一人ひとりの本の読み方はそれぞれの個性で、そこには正解があるわけではない。普段、胸に潜めている思いが、この場所で共有され、共感や関心を互いに抱くようになる。そんな心の歩み寄りが生まれる、ささやかな奇跡の場所に参加できる読書です。第四回児童ペン賞、企画賞受賞作。実に面白い企画でしたね。
本を紹介するということについて、あらためて考えさせられる一冊です。自分もこうやって本を紹介していますが、実に大人目線なんだなと思い知りました。『子犬工場』を紹介した本田さんは、ケイト・ディカミロの『きいてほしいの、わたしのこと』が好きで、主人公の女の子オパールと飼い犬ウィン・デキシーの触れ合いについて思いを巡らせます。ペットショップの生体販売に反対しながらも、動物と暮らすことの素晴らしさを強く想っていることが伝わってきます。『子犬工場』のペット産業のダークサイドを憂う気持ちには、ただ動物が可哀想という以上の、彼女の強い信念を感じるのです。ところで『きいてほしいのわたしのこと』を紹介した自分の文章を読んでみると、ほとんど犬のことに触れていないのに驚きました。本田さんが抱いた、オパールがウィン・デキシーがいることにどれほど歓びを感じていたかについて、ろくに書いてもいない。『バッテリー』についても、さすがに小学五年生の女子のようには、巧君のことを考えられてはいません。要は、僕のは中年男のヤサグレ児童文学紹介だったのです。それはともかく、お互いのまなざしや、視線の先にあるものの違いを知ることは大切なことだなと再認識しました。本を語ることって、本で自分を語ることなんだなと、あらためて思った次第です。この物語で語られたのも、彼ら自身のことです。そんな感想を抱くのも脳の不思議です(影響されています)。