みずがめ座流星群の夏

出 版 社: ポプラ社

著     者: 杉本りえ

発 行 年: 2015年06月

みずがめ座流星群の夏  紹介と感想>

小学六年生、十二歳の女子二人のとても穏やかな友情の物語です。同じクラスの女子の友だち関係が描かれる物語は、概して教室の難しいパワーシフトが中心になり、その窮屈な人間関係が描かれがちです。ちょっとしたことで仲間外れにされる、息が詰まりそうな緊張感。そうしたものは一切ないけれど、本書は甘くて緩い物語ではありません。それでも、それぞれに心に痛みを抱えている二人が歩み寄り、支え合っていく姿が、今さらながら、友だちがいてくれることのありがたさを感じさせてくれます。誰かと友だちになるということの不思議と、少しずつ心が近づいていくプロセスの愛おしさ。小学六年生ならあたり前のようにやっていると思いがちな、誰かと友だちになる、という行為の難易度を、あらためて考えさせられました。同じクラスにいるけれど、普段、つきあっているグループでもなく、距離がある二人は、ちょっとしたきっかけから、お互いを認識して、親しくなっていきます。小学六年生の夏休みという時間もまた、中学受験を意識するかしないかにかかわらず、子どもにとってはこれからの不安な未来の岐路ではあるのです。みずがめ座流星群の夏。流れ星に祈り、願いを叶えたい。そんな切実な思いがここにあります。互いを思いやる、非常に真面目な小学六年生女子二人の心地良い物語です。

中沢花(はな)が学習塾に向かうためにバスを待っていた時、偶然にその場に居合わせたのが柳田莉子(りこ)でした。六年生になってはじめて同じクラスになった二人は、親しくしているグループも違い、ほとんどしゃべったこともありません。わずかな会話を交わした後、莉子が大学病院行きのバスに乗り換えるのを花は見送りながら、莉子に重い病気の兄がいるという噂を思い出しました。事実、莉子には急性白血病になり三ヶ月以上も入院している兄がいました。莉子の家は、兄のことで、両親も莉子も心配を募らせていたのです。小学生最後の夏休みが近づくものの、楽しいイベントどころではない。それでも淋しさよりも、兄を案じる気持ちで莉子は一杯だったのです。花は、今年のはじめに同じ大学病院に入院していた祖父を亡くしており、家族を心配する気持ちに共感がありました。花は勇気を出して、莉子に学校で話しかけてみることにします。そこから二人は少しずつ近づきはじめます。身体が大きく、にぎやかな人気者の花と、大人しくて可愛らしい莉子はタイプが違います。自分にはないものを持っている二人は、お互いにちょっとした憧れを持っていたのです。会話を交わすことで、はずんだ気持ちになって、楽しくなれる。花もまた、母親の再婚をめぐって心を悩ませていました。莉子と親しくすることで、花の気持ちも明るくなっていきます。花は莉子から、彼女の兄が見たがっていた、みずがめ座流星群の話を聞き、一緒に見に行こうと誘います。高原の保養所で行われる夏休みの塾合宿に参加すれば、夜中に抜け出して流星群を見ることができる。自分だけ楽しく過ごして良いのかという葛藤を抱えている莉子は悩みながも、両親に背中を押してもらい、一歩を踏み出します。莉子もまた花の抱える悩みを知り、二人はより心を近づけていきます。さて、塾合宿の深夜、みずがめ座流星群を見ようと、二人は宿泊施設を抜け出して、冒険を決行します。花と莉子は流れ星に何を願うのか。かけがえのない時間をつなぎとめる物語の情景が印象的に刻まれていきます。

花には秘密があります。それは、死んだはずのおじいちゃんの姿が見えて、話ができることです。小さな頃に両親が離婚して父親のいない花にとって、祖父はいつも側にいてくれた大切な存在でした。突然、倒れて入院し、退院できないまま亡くなったおじいちゃんを思い出して、泣いてばかりいた花でしたが、おじいちゃんが見守っていてくれるはずだと確信するうちに、やがてその声が聞こえ、話もできるようになったのです。ただ、これは幽霊というよりは、イマジナリーフレンド、いや、イマジナリー祖父なのです。花と莉子との友情が育っていくなかで、この空想上の祖父とのお別れが近づいていきます。莉子のために、天国のまえで莉子のお兄さんがやってきたら追い返して欲しいと託すことは、祖父が花の前からいなくなり天国に行ってしまうことを認めることです。花が遅ればせでようやく祖父の死を受け入れ、さよならを告げる場面は胸を打ちます。なにかを手に入れたら、なにかを手放さなければならない。花がおじいちゃんとの過去の時間ではなく、莉子と生きる未来を選ぶ決意は、この物語が志向するものを感じさせます。人生には辛いこともあるけれど、心を繋ぎあえる人と一緒に乗り越えていくこともできる。そんな希望が謳われている物語です。二人のパートナーシップが育っていく最終章はとくに感慨深く、それを二人で披露する長編の漫才で表現するという意外な展開が驚きなのですが、ユーモラスでどこか切なさを孕んでいるあたりが魅力的です。人生には失うものがあるという悲しみと、それでも失われないものがあるという希望。すべてが上手く行くわけではないけれど、悪いことばかりではない。自分の胸に希望を灯していくことの大切さを思います。