めぐりめぐる月

Walk two moons.

出 版 社: 講談社

著     者: シャロン・クリーチ

翻 訳 者: もきかずこ

発 行 年: 1996年06月


めぐりめぐる月  紹介と感想 >
1995年のニューベリー賞受賞作ですから、堅い選択のはずなのに、読み始めた当初、話があちらこちらにとぶので、焦点が定まらず、あれー、乗り切れるのかなあ、と不安になったりもしました。しかし、見事、ラストでは、その複雑な構成の謎がすべて解けて、おお、なんということだ、と繰り返していました。パンドラの箱を開けてしまう深い喪失感もありますが、箱の底には新しい希望が残っている。作中でも話題のひとつとなる、この神話は、作品全体を統べるひとつの伏線であり、それでも「希望」は残っているんだ、と強く胸を打たれます。満足の読了感のある一冊です。

祖父と祖母に誘われて「母に会いに」アメリカ横断の車旅行に出ることになった十三歳の少女、サラ。ロードムービーのように、横一直線にアメリカ大陸を横断する、かなりあぶなっかしいおじいちゃんの運転の合間に、祖母と交わされるサラの会話で、物語は進展していきます。長い道中の退屈しのぎに、サラが話すのは、新しい学校のクラスメートたちのこと。特に親友のフィービィーと、彼女の母親の失踪事件についてです。旅の進行と、フィービィーの物語、そして、旅についてこなかった父についてのサラの回想が、三つの物語を織り成していきます。ついぞフィービィーの物語の印象が強いあたりでは、ああYA作品のパターンだなあ、なんて思ったりしたのですが、いや、わりとビックリしてしまうような三つ物語の終結に、本当、なんということなんだ・・・と、吐息をもらしてしまうラストが迎えられます。そのとき胸に灯る慈しみの気持ちと、「希望」が、この複雑な構成ゆえに、かもしだされるハーモニーなのだと知ることになるのです。思わせぶりに書いていますが、これ以上、バラせないのがもどかしいのです。是非、読んで欲しい一冊です。

『人をとやかくいえるのは、その人のモカシンをはいて二つの月が過ぎたあと』というインディアンの警句が、冒頭に掲げられています。作品中でも、謎のキーワードになっている言葉です。モカシンとは、インディアンの靴のことで、要するに、他の人の境遇にある程度の時間、立ってみなければ、真実のところはわからないということなのでしょう。原題の『WALK TWO MOONS』は、この言葉からきているそうです。ここに深い意味が込められています。ヤングアダルト小説のお楽しみ、個性的な大人たちのキャラクターが実にいいのです。なんといっても、主人公サラの旅の友、祖父と祖父母の会話のイカしていること。テンションの高い英語(国語)教育をするバークウェイ先生。作文教育はいいのだけれど、ちょっと、とばしすぎたりして。クラスメートたちも、なかなか個性的。未訳のようですが、このクラスメートの一人を主人公にした別の小説もあるそうです。考える子どもと、変わった大人たち、そして、大人たちは、深い深い悲しみをたくさん知りながらも(つまり、モカシンをたくさんはいたことがあるのだ)、「希望」をサラに教えていきます。370ページと、いささか長い小説とはなりますが、お薦めしたい、充実の一冊です。