よくいうよ、シャルル!

Tu parles,Charles!

出 版 社: くもん出版

著     者: ヴァンサン・キュヴェリエ

翻 訳 者: 伏見操

発 行 年: 2005年11月


よくいうよ、シャルル! 紹介と感想 >
せっかく「味のある」登場人物の話をするのですから、なるべく表現豊かに、その味わいを語ってみたいと思うものです。とかく「味のない」話は蔓延していて、パッケージにこだわり、その「味」の豊かさについて話をしなくなってくるもので本質を見失いがちです。それはもう「この本、重くていいよ、800gもある」なんて価値観転倒状態に近いです。大切なのは、感覚を研ぎすませること。「人間」を感じるときも、良く味わってみたいものです。第一印象の異様さに「ひいてしまう」ことなく、一歩、なかに踏み込んでみると、思わぬ隠し味にびっくりさせられたりする。だから、ちょっと舐めるだけじゃなくて、深く噛み締めてみる。じわっと口の中に滋味が広がるかも知れません。本書では「味のある」登場人物との出会いが待っています。名前は、シャルル。小学生です。でも、同級生から見ると『名前もジジくさければ、顔もジジくさく、服もしぐさもジジくさい』少年なのです。人から何か頼まれるとき以外、声をかけられることもない。いてもいなくても、いいように思われている少年。いかにも「味がありそう」な雰囲気でしょう。それでは、このシャルル少年を、もう少し噛み締めてみましょう。『バスの女運転手』に続く、少年ベンジャマンが活躍するシリーズ第二弾、『よくいうよ、シャルル!』を是非、味わってみてください。

朝、先生が真っ赤な目をして、教室のみんなに、シャルルが事故にあったことを告げます。階段から落ちて怪我をしたらしい。「一生、歩けないらしい」とか「もう助からないんだって」などと、勝手な噂が飛び交います。ベンジャマンは先生に頼まれ、ノートと宿題を持って、放課後、シャルルの家に訪ねていくことになります。首にはコルセット、足にはギブスをつけたシャルルと対面したベンジャマン。実際、得体の知れないヤツ、と思っていたシャルルですから、どうにも間が持たず沈黙してしまいます。シャルルは過保護な子のようで、歳をとった両親のベンジャマンに対する態度も、ちょっと変。とはいえ、ノートと宿題を持って、シャルルの家に通っているうちに、ベンジャマンは、シャルルがくだらない話が好きだったり、自分が好きなものにも興味を持ってくれたり、意外と絵心があったりする、「同級生の友だち」らしい側面を見つけていきます。ベンジャマンは、同級生たちがシャルルのために作ってくれた寄せ書きに、ハートマークを書いてくれた女の子のことで、シャルルの恋心に火をつけてみたり、これまでの、いてもいなくてもあまり気にしてもいなかった同級生の一人から、シャルルを面白い友達として認めていくようになるのです。

ベンジャマンの家は、両親が微妙な関係にあります。一度別れて、またよりを戻した両親は、また、ちょっと難しい関係になりつつあって、ベンジャマンの心にもそのことが影を落しています。ベンジャマンは自分の力ではどうにもならないことに、おしつぶされそうになっていました。自分の両親の関係が、日々、壊れていくのにあわせて、ベンジャマンの心も壊れていく。そんなベンジャマンに、シャルルがかけてくれた言葉は、あたたかい思いやりを感じさせてくれるものでした。よくいうよ、シャルル。でも、ベンジャマンの目からは、止まらないものが流れ出るのです。心の痛くなるような、締めつけられるような、けっして大仰ではない寡黙な友情に、ちょっと、ほろりとしてしまいます。なかなか近寄りがたくて、何を考えているかわからず、決して人前では、素直な態度をとらない。そんな人が側にいたらどうしますか。小さなきっかけから話をすることができたなら、距離をはかりながら、近づいてみる。とっつきにくくても、少しずつ、その味わいがわかってくるかも知れません。人の奥底に秘めた深い味わいや、魅力がわかる人になりたいいですね。煮締まった昆布のような、醗酵したチーズのような、固く干したスルメのような、噛むほどに沁みてくる人間の味わいを感じることができたなら、なかなか素敵なことではありませんか。蛇足ですが、物語とともに、絵もかなり大胆でステキです。このシリーズの前作、本作ともに巻末に、著者、画家、訳者の方々からのメッセージが添えられていて、これも、なかなか魅力的なのです。魅力ある作品を作る、魅力的な人たちの人間としての味わいも、充分に感じさせられる本なのです。