出 版 社: 講談社 著 者: 風野潮 発 行 年: 1999年10月 |
< ビート・キッズⅡ 紹介と感想>
パーンと、キラキラとした光の粒を撒き散らす花火のようにドラムの音が弾ける。ギターのリフ、ベースのグルーブが加わり、疾走するロックのビートが紡ぎだされていく。目には見えない「音楽」が、演奏者と聴衆の高揚感とともに文章からギンギンに伝わってくる。音楽の歓びを描いていく、音符のような言葉たち。今、聞こえている音を説明するだけではなく、その音楽の場所で高まっていくハートのビートを伝えてくれる。文章を読みながら、バンドの持つライブ感を追体験していく。それは十七歳の高校生が、音楽に魂を解放される瞬間の気持ちの高まり。おおおお、いきますね。そして、ほのかに懐かしい胸の疼きを覚えるのは、普遍的な青春への郷愁なのかもしれないけれど、切なさや痛みも心地よい、そんな作品です。興奮します。温度高すぎです。
風野潮さんの講談社児童文学新人賞受賞作『ビート・キッズ』の続編です。高校二年生になった主人公の英二は、中学生時代に熱中した吹奏楽から離れて、今は軽音楽部で活躍しています。バンドでのパートは、無論、ドラムス。三人の仲間とともに組んでいるバンド「ビートキッズ」は、未だ学園祭バンドとはいえ、それなりの音が出せるようになってきたところ。ちょっとしたいさかいからバンドコンテストでの勝負を挑まれた「ビートキッズ」たちは、一部の理解ない教師たちに目の仇にされながらも、自分たちの音楽を作りだそうとしていきます。事件は色々と起きるもので、英二は助っ人で参加したバンドから勧誘を受けたり、ちょっとは真面目になったかと思われた父ちゃんがまた軌道を外れたり、病弱な母や妹のことで心を痛めたり、鈍感な英二はすぐそばにいる女の子の気持ちに気づかなかったり、と思わずにっこりしたり、ハラハラしたり、大変なこともあるけれど、一杯、一杯、青春を生きる英二と仲間たちの姿がいとおしい作品です。関西弁のテンポが良く、勢いがあって、それでいてテレくささを孕んだ、デリケートな表現が、この仲間たちの会話をずっと聞いていたいような気持ちにさせられます。笑ったり泣いたり、思いやったり、行き違ってみたり、エンジン全開、全力疾走の友情は、クールじゃないかも知れないけれど、こういうのいいよなあ、と、なんだか素直じゃなかった自分の高校生時代を反省するものであったり。ジタバタと足踏み鳴らしながら、泣きながら転んだりしながら、思いっきりいくぞー、とまあ、青春の快進撃。心を満たしてくれる、ずっと読んでいたいような、幸福な一冊です。
高校生時代が手放しに幸福であったか、というと、うーん、と考えてしまうところもあります。バンドにしてもそうで、あの個性のぶつかりあいは、難しいことも多くあって、「方向性の違い」や感情的な対立から袂を分かつことも少なくはありません。だからこそ、物語の中のバンド幻想はあって、仲間でしか鳴らせない音を鳴らし続けて欲しいと思うのかなあ。貸スタジオで、シールドをアンプに入れて、ボリュームを上げる瞬間。アイデアが形になっていくときの興奮。完成したデモテープを聴きながら、顔を見合わせ「オレたち、凄いんじゃない?」と思わずニヤけてしまう瞬間(後でアラが沢山見えてくるんですけれどね)。『ビートキッズⅡ』は、そんなバンドの幸福を沢山、思い出させてもらいながら、全力で弾けている青春を感じられる一冊です。感情過多な登場人物たちに寄り添って、一緒に興奮することが、より良い読書スタイルかも。巻末の音楽用語(大阪用語?)解説も楽しい、ともかく心地よい一冊です。ちなみに、ビートキッズは漫画化もされているんですよ。