夜フクロウとドッグフィッシュ

TO NIGHT OWL FROM DOGFISH.

出 版 社: 小学館

著     者: ホリー・ゴールドバーグ・スローン

      メグ・ウォリッツァー

翻 訳 者: 三辺律子

発 行 年: 2020年07月

夜フクロウとドッグフィッシュ  紹介と感想>

ほぼ全編、メールのやりとりで進行する物語です。かつての書簡小説と同じように、その通信文面から物語が立ち上がってきます。二人の十二歳の女の子同士がメールを通じて交流を始めることになりますが、もとより二人は知り合いではなく、顔も知りません。ロサンゼルスに住むベットがニューヨークに住むエイヴリーのアドレスを調べ出してメールを送りつけたのは、一言、言っておきたいことがあったかったからです。エイブリーは何が何やらわからず、この見ず知らずの少女からメールに戸惑います。なにせ、突然に「父親同士が付き合っている」けど、自分はサマースクールに参加する気はないと宣言されたのです。一体それはどういうことなのか。メールのやりとりをしながら詳細を確認していくと、建築家のエイヴリーのパパと、プールや噴水を作る技師のベットのお父さんは建築博覧会で知り合い、恋人同士になったようなのです。ベットもエイヴリーも自分の父親がゲイ(同性愛者)であることは認識済ですが、いつの間にか恋人を作り、自分たちの娘同士も仲良くさせたいと、同じサマーキャンプに行かせようとしているとは思いもよらないことでした。しかもその間に自分たちは中国横断のバイク旅行に出かけるなんて計画を立てているのです。そんな勝手な父親たちの思惑通りにはなりたくないとベットもエイヴリーも腹立たしく思います。こうして二人はこの困った状況を共有すべくメールでのやりとりを続けていきます。互いに牽制しあいながらも同い年の女の子同士、次第に深く語り合うようになっていき、心の距離を近づけて行きます。そして、結局、同じサマーキャンプに二人で参加することになり、ここから思いがけない展開へと進んでいくのです。

後に夜フクロウとドッグフィッシュと互いを呼び合うようになる、まったく違うタイプの二人。ベットはアフリカ系アメリカ人で、猪突猛進するタイプ。運動が得意でアクティブ。一方でエイヴリーは白人で、慎重で読書が趣味で将来は作家を目指しているような大人しい子。「!」マークだらけでスペルや文法の間違いの多いベットのメールと、丁寧に話をするエイヴリーのメールもまた対照的。キャンプに行っても、互いに知らんぷりをすると言っていたのに、キャンプでの日々を過ごすうちに、もはや普通の友だちを越えて、二人は親友同士になっていきます。ベットのお節介で、ずっと離れて暮らしていたエイヴリーの母親とキャンプで再会することになったり、ちょっとハメを外して、キャンプを追い出されることになったり、ベットを迎えにきた祖母のガガが、どうしたわけか、脚本家であるエイヴリーの母親が書いた舞台に出演することになって女優デビューしたりと、思わぬ展開が続きます。一方で、中国でバイク旅行を続けていた父親たちにもトラブルが起き、そこから仲違いして、恋人関係を解消することになってしまいます。すっかり意気投合して、姉妹気分で結婚式の計画まで立てていた娘二人は、思わぬ状況に驚きます。しかも父親たちはベットとエイヴリーも付き合ってはいけないと言うのです。さて、そこで二人はなんとか父親同士の仲を元に戻すための作戦を練っていくことに、と楽しい展開はベットとエイヴリーのメールだけではなく、二人の父親やエイヴリーの母親、ベットの祖母のメールも交えて浮かび上がってくる実にユーモラスで勢いのある物語です。

夜フクロウのように賢くて、夜遅くまで起きて本を読み続け、冷静な観察眼を持っているエイヴリー。ドッグフィッシュ(サメ)のように荒々しく、常に行動を起こしていないといられないベット。共通点がない二人だけれど、互いを理解し、弱点をカバーして、困難を乗り越えていけるチームになっていく姿は読んでいて実に楽しいところです。リアルの学校で一緒だったら、決して友だちにはならないだろう二人がメールで言葉を交わすことから互いを知りあったことで結ばれていく関係性がまた、ロマンを感じさせます。『おしゃべりな手紙たち』(アン・M. マーティン、ポーラダンジガー)という二人の性格の違う女の子の手紙の交換による物語がありました。SNS時代とはいえ、長文メールのやりとりは手紙とあまり変わりがありませんが、相手に届くまでのスピードの違いや、複数の宛先に同時に送ることが書簡小説を多様に進化させているところは興味深いものです。思いもかけない偶然の出会いで、運命が変わっていくのは、実はベットの祖母のガガで、物語の中で運命の転変を迎える真のヒロインであったりするのですが、偶然の連鎖が最後に必然を生み出し、それが運命だったと思えるような人と人との繋がりが生まれていくことを愛おしく感じられます。物語の最後にベットとエイヴリーからガガに贈られる手紙の素敵なこと。物語のエッセンスがぎゅっと詰まった心温まるものになっています。シカゴの建築博覧会での父親同士の偶然の出会いから始まる物語は、LGBTを意識させられものなのですが、この物語では同性婚もごくごくあたり前のようにとらえられており、子どもたちも、自分たちの家がちょっと変わっているぐらいにしか思っていないのが頼もしいところです。それもこれもひっくるめて、どんな形であれ、家族が増えていくことは素敵なことなのだと、すべてが肯定的に捉えられています。ポジティブに生きている登場人物たちの姿には、色々な環境にいる読者の子どもたちが励まされるものだと思います。とても楽しい一冊です。