出 版 社: 早川書房 著 者: マーク・ハッドン 翻 訳 者: 小尾芙佐 発 行 年: 2003年06月 |
< 夜中に犬に起こった奇妙な事件 紹介と感想>
クリストファーが夜中に見つけてしまったものは、近所で飼われているプードルが、庭作業用の大きなフォークを突き刺さされ、死んでいる状況でした。特別な学校に通う十五歳の少年は、数学や物理の天才であり、世界中の国の名前と首都の名前、7507までの素数を全部言えます。一方で、彼は、人の表情や感情を読みとることができません。その行動もまた、普通の子と違っていました。死んだ犬を抱きとめていたところを警察に取り押さえられ、警官を殴ってしまったために捕まったクリストファー。その心中には、犬が誰に殺されたかを突き止めたいという気持ちが閃いていました。やがてクリストファーは、その独特な知能で、調査と推理を始めます。しかし、事件を追いながらクリストファーは、もうひとつの秘密を紐解いてしまうことになります。二年前に心臓発作で死んだはずのお母さんが、実は生きているではないかという証拠を掴んだのです。そして、そのことが犬を殺した犯人探しへとつながっていきます。常人からは混迷しているように見えるクリストファーの心理状態は、彼なりの秩序によって成り立っています。お母さんに会いに行くため、狭い生活半径を出たことがなかったクリストファーは、一人で電車に乗り、ロンドンへと向かいます。その冒険を、クリストファーに独特が頭脳が捉えていきます。発達障がいの少年の心象を描く、現在(2023年)となっては、歴史的な分岐点となった作品です。解説でエリザベス・ムーンのThe Speed of Dark について触れていますが、『くらやみの速さはどのくらい』のことだったのかと、今さらながら気づいて、驚いています。