出 版 社: あすなろ書房 著 者: ウェンディー・オルー 翻 訳 者: 田中亜希子 発 行 年: 2008年07月 |
< 秘密の島のニム 紹介と感想 >
ニムは父さんと二人で無人島で暮らしています。ニムの父さんも母さんも海洋研究をする科学者だったけれど、母さんはニムが赤ん坊の時、クジラに呑まれて行方不明になってしまいました。父さんは、母さんの行方を追って、世界中の海をさがしまわったけれど見つからない。その時、父さんは地図にものっていないこの秘密の島を見つけました。白い貝がらでいっぱいの島。金色の砂。火山や、滝があって、飲み水にも困らない。こんな美しい島は見たことがないと思った父さんは、ニムと二人で、ここに住むことに決めたのです。島で育ったニムは、アシカのセルキーと、イグアナのフレッドを友だちにして、父さんの仕事を手伝いながら楽しく暮らしています。プランクトンの研究をしている父さんは、時々、船に乗って、島を離れて調査に出かけるので、何日間かニムはひとりぼっち。でも、ソーラー発電のしくみや、パラボラアンテナもあるので、携帯電話で船の父さんと連絡をとったり、パソコンのEメールも使えるから、安心して、短い期間なら、父さんも海に出ることができます。さて、留守番をニムに託して父さんが出かけている間に、父さんにメールで質問を送ってきた冒険物語作家のアレックス・ローバーとニムはやりとりをすることになります。アレックスの描く勇敢なヒーローがニムも大好きでした。アレックスに頼まれてニムは冒険物語の取材の実験をすることになったけれど、父さんが出かけて二日目、急に、船の父さんと電話が通じなくなってしまいます。もしかして、船が沈んでしまったんだろうか・・・。迫りくるピンチを女の子ニムがどう切り抜けるか。楽しくロマンあふれる冒険物語です。
小さな女の子がたった一人で無人島に残されて、ふりかかるトラブルを解決していく。自然があふれる島での生活の厳しさや驚きは、こうした無人島モノの醍醐味ですが、ワイルドライフを送っている女の子が、メールで都会に住んでいる作家とのやりとりを並行させていくところが面白いところです。しかも、この作家、ヒーロー物を書いているものの、実はインドアで勇敢さには欠ける若い女性。ニムとメールのやりとりをしているうちに、だんだんと女の子がたった一人で無人島でピンチを迎えていることがわかってきます。さて、どうするか。書斎派の彼女が意を決して行動を起こそうとするあたりが物語のクライマックスです。中学年向けの読みやすい物語ですが、作家アレックス側の心境の変化も想像されて、これはなかなかロマンあふれる展開ではなかったかと思います。失踪中のお父さんを待ちながら、女の子と若いお姉さんがピンチを乗り越えて、二人には疑似母子のような愛情が芽生える。やがて、お父さんが見つかり、お姉さんは、新しいお母さんになる・・・という展開を持った作品が以前にもありましたが、これもまた物語の黄金パターンかも知れません。先のことはわからないけれど、色々と期待してしまう、予感を孕んだ魅力的な物語です。
少年少女のサバイバル。未開の土地や無人島を、彼らが生き延びる物語はやはり面白いもので、子どもの読者にとっては一緒に手に汗を握れるところでしょう。『十五少年漂流記』のような集団ではなく、たった一人でピンチを乗り越える方が、より興奮させられるところです。女の子ものなら、スコット・オデルの『青いイルカの島』や、男の子ものでは、ゲイリー・ポールセンの『ひとりぼっちの不時着』など、緊迫感みなぎる名作があります。本作は、ユーモラスであったり、メールだけとはいえ心強い相棒がいることもあって、わりと安心して読めるところもありますね。孤島に住むことになった家族、と言えば『スイスのロビンソン』が思い出されるところで、実は、この物語の中でも、ちらっとこの本が出てきます。ところが『スイスのロビンソン』が日本でアニメ化された際には『不思議の島のフローネ』として、男兄弟の物語に、主人公として原作にはいない女の子が追加される改変が行われました。女の子が無人島に遊び、冒険する物語が求められていたのかも知れず、そうした意味では、本作品は待ち望まれていたものかも知れないなどと思うところです。そういえば、『秘密の島のニム』というタイトルもちょっと似ていますね。