靴を売るシンデレラ

Rules of the road.

出 版 社: 小学館

著     者: ジョーン・バウアー

翻 訳 者: 灰島かり

発 行 年: 2009年07月


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自動車教習所で教わったことは人生の真理に通じる、というのは大袈裟ですが「前の車とは一定の距離をとる」「道に入れてほしい時には、相手にわかるようにサインを出す」「法定速度を守ることより、流れに乗ることが正しい時もある」なんて、どれもなんとなく含蓄がありそうな気がするでしょう。そういえば「どうしても事故を避けられない場合は、被害者が少ない方を選択する」という裏技を教わったこともありました。歩道に突っ込むか、反対車線に踊り出るか、そんな二者選択はしたくないものですが、まま人生にもそうした局面はあるのかも。この作品の原題『RULES OF THE ROAD』は「路上のルール」、つまりは「交通規則」という、なかなか含みのあるものです。車の免許をとったばかりの主人公ジョナは、交通標識が存在しない、人生というものの難しさを思っています。安全運転で人生を渡りたいのに、警告も注意信号もない。それでも目的地に向かって進むためにはアクセルを踏み込む勇気が必要なのです。実に楽しく、グッとくるヤングアダルト作品です。

十五歳の女の子、ジョナは靴屋でのアルバイトに、不思議なフィット感を味わっていました。身長が179センチもあって、ただ大きいだけの自分は身の置きどころがないな、なんていつも思っていたのが、お客さんに上手に靴を勧めることができる才能があったとは。セールスのセンス。もしかすると、それは父さんから受け継いだものかも知れない。けれど、誇り高き優秀なセールスマンだった父さんは、アルコール依存症から脱却できないまま母さんと離婚。かれこれ二年以上もジョナと顔を合わせていなかったのに、突然、酩酊状態でバイト先に現れて、ジョナを困惑させたりします。父さんに立ち直ってもらいたいとは思うけれど、悩めるティーンエイジャーには問題が山積されていて、父さんだけに構っていられないのです。そんな時、ジョナは勤務している靴店の老女性社長から、自分のドライバーになるように命じられます。半年前に免許をとったばかりで、運転に自信もないのにキャデラックのハンドルを握ることになるとは。全米に173店もの店舗を持つ大チェーンの社長が何故、自分をドライバーに指名したのかわからないまま、夏休みを費やした、シカゴからテキサスまでの長い旅が始まります。品質第一の良心的靴屋チェーンの存亡をかけた旅に関わることになったジョナは、そのセールスの天才的な才能と勇気で、困難な道を切り開いていきます。ジョナの行く先にはどんな世界が待ち受けているのでしょうか。実に痛快な成長物語がここにあります。

『靴を売るシンデレラ』という邦題は、読者の関心をやや恣意的な方向に引き寄せます。僕には、宝石を売って暮らす没落貴族の斜陽的なイメージがあったのですが、靴店の売り子のシンデレラストーリーということのようです。魔法ならぬ、ヘアカットとドレスアップで、ジョナは美しく変身もしますが、そもそも彼女には才能があるし、その気丈で健気な性格だけでも愛おしく思える子です。家族のことで思い悩み、そして今度は、一緒に旅を続ける老社長の心のうちを知ってしまった彼女は、またまた心を痛めていきます。背は大きいけれど、まだまだ小さな自分に何ができるのか。大人の世界で、矜持を持って職業に生きている人たちと触れ合いながら、ジョナは色々なものを吸収して大きく成長していきます。暗闇を恐れず、目を背けないこと。ぐっと歯をくいしばって辛いことも越えていく。そんなティーンの成長物語が心をうちます。主人公のジョナは、周囲の誇り高き大人たちが好きにならずにいられないような、輝く資質を持っています。人生の教習所の教官のような大人たちも、思わず彼女には虚をつかれてしまうわけです。危なっかしいハンドルさばきで、ジョナがアクセルを踏み込んでいくのを、固唾を飲んで見守らずにはいられない。そんな魅力的な物語なのですよ。

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