出 版 社: ポプラ社 著 者: さとうまきこ 発 行 年: 2009年04月 |
< 14歳のノクターン 紹介と感想>
1960年という年を、今から半世紀以上前の世界と捉えるか、1945年から15年後の世界と考えるか。時代感覚を踏まえて色々な視座から楽しめる作品です。昭和三十五年。四年後にはオリンピックが開催されることも決まり、賑わう都市、東京。成城学園にある私立中学に通う章子は、友人関係に悩んだり、異性関係にときめいたり、平穏な中の小さな嵐に心を震わせる14歳の日々を送っていました。自分が自分であることの意味はなんだろう。お友だちみたいにはピアノにも絵にも才能がないけれど、学者のお父さんがつけてくれた章子という名前の通り、文章だけは得意。女学生雑誌の投稿欄にも名前が載るようになったこの頃は、それがちょっと自慢。友だちの両親が離婚するなんて話を聞いて、まるでよその国の出来事みたいに思ってしまうし、『にあんちゃん』の作者と自分が二つしか違わないことに驚いたりもする。そんな護られたサンクチュアリに住むお嬢様である章子。フィクションとはいうものの、著者である、さとうまきこさん(1946年生まれ)のリアル世代のお話なので、固有名詞など風俗描写の時代感が楽しめますし、半世紀以上たっても変わることのない等身大思春期ワールドも味わえます。この頃は「戦後児童文学」の時代でもあるのですが、同時代の子どもの相も一様ではないということですね。ともかくも、回想の1960年を楽しめる作品です。