出 版 社: 理論社 著 者: アレックス・ブラッドリー 翻 訳 者: 三辺律子 発 行 年: 2005年09月 |
< 24girls in 7days 紹介と感想>
アメリカのハイスクールに通っていなくて良かった、と思うことの一番の理由として「プロム」の存在があげられます。あの卒業ダンスパーティーときたら、自分のように高校時代に恋人もいなければ、異性の友人さえいないものにとっては、頭痛のタネでしかないはずです。きっと、ちょっと憧れも持ちながらも、プロムなんて興味ないよ、とうそぶいてみたりするのでしょう。さもなくば、なぜか急にクラスの人気者に誘われて、パーティーに参加することになって、しかもプロムクィーンに選ばれて、壇上に上がった瞬間、動物の血を頭から浴びせられて笑いものにされるという酷い仕打ちを受けるのです(なんの映画の話か)。ともかく、輝かしい青春の思い出のプロムなんてものを、自分のようなタイプは、誘う男の子の立場でも、誘われる女の子の立場でも、うまく過ごせそうにないと、不器用な高校時代を回想しつつ思ったりします。というような僕ではあるので、この物語の主人公、ジャック・グラマー少年には、ちょっと親近感を持つのです。女の子とつきあったことのないジャック・グラマーも、ハイスクール卒業まぢかになって、俄かにプロムに女の子を誘いたいと考えてしまいます。成績優秀、身長が180cmもあって、ハンサムといえないこともないけれど、どうにも引っ込み思案な性格。週末は親友たちのデートにお供するような人畜無害、かつ、切手収拾クラブの副部長・・・となると、ちょっと女の子には退屈な存在かも知れず、どうせモテないし、こんな自分が女の子を誘ってもと、自信はゆらぐ一方。そんなジャックの親友のナタリーとパーシーは、なんとか、ジャックの気持ちを奮い立たせて、プロムに女の子を誘うよう勇気づけます。とはいえ、なかなか煮え切らないのがジャック。そんなジャックの知らないところで、友情の名のもとに「プロジェクト」は密かに進行していたのです。
ジャックの高校の校内新聞はネットで閲覧できるようになっています。ある日、その恋人募集欄にのった個人広告は「ジャック・グラマーがプロムの相手を募集している」というものでした。なんと当のジャックが知らないうちに、自分のプロムのための相手が募集されているのです。恥ずかしいのもいいところ。物見高い生徒たちの間では、すっかり噂になって、興味半分、嘲笑半分で、このジャックの「勇敢なる行為」は話題の的となります。怒り心頭のまま、この広告を出した犯人を捜すジャック。果たして、親友たちの仕業とわかったものの、ジャックの気持ちは複雑です。なんと149通の応募メールがあったと、ナタリーは教えてくれます。その中から厳選した24人の「リスト」が作成され、ジャックに渡されます。さあ、これからプロムまでの1週間で、『土日も休まず二十四人とデート』して、プロムに誘う相手を決めなければならないのです。何故、こんな冴えない僕が、こんなにモテるようになったのか。何故、みんな僕とプロムに行きたがるのか。ジャックの気持ちは、わけがわからないまま、大いに揺れるのです。そんな中、ジャックのもとに届いた1通のメール。「ファンシー・パンツ」と名乗る匿名の女性は、「プロム自体に意味はない、あれは幻想よ。あなたを変えるのは、あなた自身よ」とジャックを励ます謎の人物。彼女は「リスト」の中の一人なのか。ともかく、片っ端から、スケジュールをたてて、積極的な女の子たちとデートのはしごをすることになったジャックの1週間がはじまります。色々な女の子たちと逢い、ジャックは、それぞれの子たちの良さを知り、また、時に傷つき、傷つけてもしまいます。校内新聞はジャックが誰を選ぶのかたきつけ、煽りつづけます。すっかり、校内のゴシップの中心で踊らされているジャック。一方でジャックは、するどい進言を送りつけてくる謎の「ファンシー・パンツ」を探していました。さて、ジャックは、二十四人の個性的な女の子たちの中から、誰をプロムのパートナーに選ぶのでしょうか。
モテない男の子が、急に立場が変わって、モテモテになってしまも、やはり物語には逆転が用意されているものです。ジャックは浅からぬ傷を負い、そして、自分にとって一番大切な人が誰かということに気づいていきます。まあ、さわやかな青春の香りのする物語で、最後には、本当にジャックを思い、理解してくれる人が現れます。それが「ファンシー・パンツ」なのかどうかは、読んでみてのお楽しみ。人生は短く、高校時代など、あっという間の時間です。恥ずかしがらず、心を開いて、多くの人と話をすることができたなら、異性であるかどうかなんてことも無関係に違った視野を持った人たちと出会えたかも知れません。甘い香りに満ちた物語。どうにもカッコ良くきまらないジャックの性格が、こうした経験の中で、どう変わっていくのかが見ものです。幸福な青春をやっかむことなく(いやどうか)、楽しく読むことのできた一冊でした。